立ち退き銀座日記#1から読む
立退き交渉人が翌日に来た。前回800をウチの社長が提示して、そのアンサーを聞けることになっていた。しかし、また、遅刻してきやがった。まったく時間にルーズな交渉人である。彼は椅子に腰をかけるなり、立退き金額の話しをしてきた。
交渉人「前回、800でということを上の方に伝えまして…」
社長「はい」
交渉人「そのご希望に応えられないんです」
社長「はぁ」
交渉人「頑張って300ってところかと」
と、おもむろにドン・キホーテに売ってるようなデッカイデッカイ電卓を出してきた。僕は完全にギャグかと思ったが、交渉人もウチの社長も真顔だった。
そして、交渉人はパチパチと電卓を弾き…
交渉人「プラス、特殊な配線費用とか、パチパチ、社員の皆様の心労の寸志、パチパチ、裁判しない分の費用等々を、パチパチ、込みまして…パチパチ」
いちいちデカイ電卓をパチパチ使うのは彼の作戦だろうが、そんなアクションには騙されないぞ。下手な小芝居打つならソロバンでも持ってきやがれ。っですよね?社長。
と思い社長の方を見ると
完全に固まっていた。
そう、社長は電卓に弱いのである。だから、絶対に秋葉原や電器量販店で買い物はしないのだ。電卓を見たくないからである。
西淀川出身が泣いてらぁ。
そんな、社長にデカイ電卓は効果的面であった。1575円の電卓で500万円の効果である。
交渉人「パチパチ、もろもろ含めまして…」
「400でどうでしょう!」
社長「は、半額ですか?」
交渉人「他の契約者さんもいらっしゃいますんで」
そこで、僕はカチンときたので割って入った。
僕「今、他の契約者の話しは関係ないでしょう。あなたは個別で来てますよね。何なら他の契約者もこの場に呼びますか?」
交渉人「すみません。まぁ、こちらとしてもなるべく裁判沙汰みたいなトラブルは避けたいので、ご相談なんです」
社長「そうですよね。こちらも考えてみますので、結論までちょっと時間をください」
交渉人「なるべく早くお願いします。契約がもうすぐ切れますしね」
ここで、社長が少しキレる
社長「2月7日に突然立ち退きの話しを聞いたんです。時間が無いって言われても」
交渉人「そうでした。すみません」
「では今日はこれで失礼します」
うん。社長にしてはホームラン級の一発だった。そのあと味噌ラーメン先輩が「なんか紹介していただける銀座5丁目の物件ってどこですか?」とかマヌケなことをこのタイミングで聞いていて、後で社長にエラい怒られていた。まぁ、八つ当たりだ。
とりあえず400はいった。これからは我慢比べだ。先に折れてアポイントを取りにいった方が負けである。いちいち社長に言わなくても、このくらいは分かるだろう。
そう、思っていたが、やっぱり思っていたことはちゃんと言葉に出して伝えるべきであった。
つづく