かつて京都に住んでいたので市内の有名寺院の多くは参拝済み…なのですが、それでも未参拝の寺院はまだまだあり、東山にある泉涌寺もその一つでした。ずっと参拝したいと思いつつも中々ご縁がなく…、しかし、この度十年越しでようやく参拝することができました。

 

 泉涌寺は真言宗泉涌寺派の寺院であり、御寺(みでら)という別称があります。御寺と言われる理由は、泉涌寺が天皇の菩提寺だからです。鎌倉時代の四条天皇の葬儀がこちらで行われて以降、室町時代の後光厳天皇から孝明天皇まで歴代天皇の葬儀は泉涌寺で行われており、また、天智天皇から昭和天皇までの歴代天皇の位牌が祀られています。現在でも皇族の方々が京都に来られる際には、お墓参りとして御参拝されるそうです。

 

 京阪電車の東福寺駅から20分程度歩きます。この辺りを東山といいます。東山とは、比叡山から稲荷山までの低山群およびその周辺地域のことを言います。都から直近ということもあって、延暦寺、清水寺、伏見稲荷…など、我が国屈指の霊的施設が存在しており、泉涌寺もそのような連なりの中に立地しています。すごい地域だ。

 

 泉涌寺の特徴の一つとして、この「降り参道」が挙げられます。入口の大門を入ってから本堂まで急勾配の下り坂となっているのです。下り坂の由来については、諸説ありますが、たまたまお話しする機会があった寺内のガイドさんによると「色々言われていますけど、実際には、地形上仕方なかったんでしょうねえ…」と(笑)。正直なのは良いことです。

 

 入口の大門すぐ傍にある楊貴妃観音堂です。日本で一番美しいといわれる楊貴妃観音菩薩が祀られています。観音菩薩は三十三応現身といって衆生の救済のために様々な姿に変えるとされていますが、美しい姿であることも衆生の救済のためということでしょうか。以前どこかで「マリリンモンローのお願いを断るアメリカ人はいない」とか聞いたことがありますが、やはり煩悩深き衆生は美人の言うことをよく聞くのです。

 

 本堂です。本尊は、金色に輝く、釈迦(釈迦)・阿弥陀(現在)・弥勒(未来)の「三世仏」です。これは非常に珍しいもので、泉涌寺のホームページで公開されていますので是非ご覧ください。

 ちなみに、本堂で10歳くらいの子供が「ほとけ三兄弟」と何度も大声で話していたことが、記憶に残ってしまっています。今後、三世仏をみたら「ほとけ三兄弟」にしか見えません。どうしてくれるんだ。

 

 寺内の端にある小道を通り、裏手にある月輪陵を参拝します。四条天皇が最初に葬られて以降、しばらく間が空き、その期間における歴代天皇は主に伏見の深草北陵に葬られていますが、江戸時代の歴代天皇はこの月輪陵に葬られています。それにしても不思議なのですが、この月輪陵の遥拝所についてはあまり案内されていません。陵墓であることから宮内庁管理であるため、泉涌寺管理ではないという位置付けなのでしょうか。

 

 陵墓遥拝所です。陵墓ゆえに、「静安と尊厳の保持が最も重要」ということで中には入れません。見えそうで見えないというのがとても萌えます。

 泉涌寺全体を通して言えますが、皇室の菩提寺ということもあって、とにかく品があります。しかし品がありますが、よくよく考えてみたら墓所ですし、さらに中世以降の歴代天皇の多くは土葬です。あの門の向こうには…(いろいろ)。と、自分の中で容易に消化できない様々な想像力が働きます。これが私の感じ得る泉涌寺の大きな魅力でしょうか。


 ちなみに、グーグルマップで見るとこんな感じですね。後月輪陵といわれる孝明天皇陵が隔絶してデカい。

 いろいろ政治の力が働くんでしょうね。四条天皇が泉涌寺に葬られたのも、承久の乱以降の政治情勢が影響していたと聞きます。皇族の葬送儀礼…、また興味を引くテーマを得ることができました。