ここ数年、私にとって読書は一番苦手なことだった。

読めないというより、最後まで読み切ることができない状態と

いったほうが良いかもしれない。

 自分ではなぜなのかわからないが、

本屋に行って、ちょっと興味を持った題名を見て

手に取ってページをめくっても、すぐに戻してしまう。

何冊もその繰り返しをして、結局一冊も買わずに終わっていた。

 本屋を出ると、いつも

『また買えなかった。駄目だな。』

 多分、気持ちが向かないことが一番の原因だと思うが、とにかく

本が読めない自分が嫌だった。

 別に読めないなら無理して読まなくてもと、気軽に思えなかった。


 ある日、本屋で偶然私を見かけた友達が、後日

「なんかすごくやつれた顔して立っていたから、声かけられなかった。」

 原因不明で病院の検査入院を繰り返していたころだったので、きっと

活字に救いを求めて本屋に行っていたのかもしれないと思った。

 本屋に行けば、今の苦しみを和らげてくれる言葉に会える気がしたから。

自己啓発本、感動する話、泣ける実話、なんでもそろっている。

その中から、きっと自分に合う本と出会えると思って、いつも本屋に行っていた。


 でも、かかりつけの病院が確定し、病名もはっきりした今、求めていたものは

【本との出会い】ではなく、【人との出会い】だったと気付いた。


そして今日ついに、文庫本を一冊読み終えることができた。

一字一句を読み飛ばさず、丁寧に読んだ。

読んでいくうちに、自分の気持ちと重なるセリフがたびたび登場してきた。

だから読み切ることができたと思う。

 この本の作者に会ってみたい、そんな気持ちにされる素敵なお話だった。

もし会って話ができたら、本が導いてくれる【人との出会い】になれたかもしれない。