入院6日目。今日は土曜日なので検査はない。やっとゆっくりできる。

午後は、夫と息子がお見舞いにくる。

 入院期間が延びて、手持ちの着替えが足りなくなっていた。病棟には、コインランドリーがあるので

洗濯はできたが、まだ道に迷ったり、歩くことに不安があったので、何枚か持ってきてもらうことにした。

「こんにちは。」かん高い声が病室に響く。息子が入ってきた。

いつもと同じあどけない顔だった。

 入院して一番気がかりだったのは、息子のことだ。

小さい頃から集団行動が苦手で、いつも自分の世界を作って遊んでいた。

小学校に入り、だんだんとお友達とも交わるようになった。

そして、中学入学。入学当初は、特に問題はないと思っていたが、夏休み前の個人面談で担任から

「授業中独り言を言っていたり、落ち着きがありません。」

成績も、国語、英語と理科・数学・社会の点数の差が激しかった。


 私は、近所の総合病院小児科に息子を連れて行き、診察を受けさせた。

「自閉症アスペルガーの疑いがあります。」

【自閉症アスペルガー】脳の先天的機能障害。親の育て方や、しつけとは関係がない。

 さらに詳しい心理検査を受け、薬の服用も勧められた。

運動部に自分で入部を決め、毎日くたくたになりながらも一生懸命部活を続けている息子にとって

薬の服用は影響するとおもい、結局服用には至らなかった。

学校にも息子の状況を伝えたところ、全教師が全面的に見守ってくださるという支援体制ですとの

返答だったので、今は安心して学校に通わせている。

 毎日、部活仲間が迎えに来てくれて、元気よく登校している。


 入院期間とちょうど同じ期間内に、学校の移動教室があった。二泊三日のスキー教室。

「スキー教室楽しかったよ。これ、同室の人へのお土産だよ。」

 15センチほどの正方形の箱を取り出し、表の包装紙を破り、中身を丁寧に取り出した。

 一枚ずつ小分けになったクッキーだった。

 息子は恥ずかしがり屋なので、自分で渡しにいこうとはせず、パパにお願いした。

「スキー教室のお土産です。」


同室の仲間には、息子がスキー教室に行っていることを話していたので、

「お土産買ってきてくれたの、ありがとう。」

みんな快く受け取ってくれた。

『ちゃんと気配りができる子に成長したな。』

色々心配なことは山ほどあるが、今は息子を見守っていきたいと思う。

息子の久しぶりの優しい姿が、私には何よりの“うれしいお土産”だった。