人生は 山あり 谷あり 事情あり
『6人の女 ワケアリなわたしたち』

 

 NHKの日曜夜11時から放送されている、海外ドラマが非常に良い。ヨーロッパのドラマが多い。

 先日放送が終了した2022年のフランスのドラマ「6人の女 ワケアリなわたしたち」は、私の心に100%突き刺さった。

 タイトルからでは、このような内容のドラマだとは、全く想像もしなかった。オムニバスのラブコメかと勘違いしそうだ。でも……。


 がんと共に生きる人々の姿をリアルに、そしてユーモアたっぷりに描くエスプリの効いたフランス発のヒューマンコメディー。日本と違い、癌の人が死を迎えるためのドラマではない。
 

 著名な大学教授の妻サラ、バリバリの企業弁護士ノエミ、救急医のパティ、がんで姉を亡くしたカレン、インド帰りのヴァレリー、警察官のモルガン。

 年齢も雰囲気もバラバラの6人の女性たちを結び付けているのは「が ん」。体調もいろいろの登山初心者たちが、無謀にも高さ3,500メートルを超えるフランス・アルプスの山に挑もうとしていた。目的は、治療仲間だったエヴの遺灰を頂上にまくこと。この登山を計画したのもエヴだった。

 6人は、その目的を知らないガイドのトムを振り回しながら意気揚々と出発。大自然のなかで過酷な山登りをしながらさまざまな騒動が発生。6人それぞれが隠していた秘密がしだいに明らかになっていく。

 

 登山はまるで人生のよう。楽しく順調かと思えば、苦しくてペースが落ちたり、立ち止まったり。くじけてあきらめそうになりながらも、休憩をしながら前に進んでいく。6人の「がん友」が助け合ったり、衝突したりしながら挑む冒険の中で、かけがえのない絆が生まれていく。そして突然訪れる恋の出会いも……。

 全編を通して映し出されるアルプスの大自然の美しい風景も実に良い。

 

 また、6人の女性のキャラが良い。個性的だけど、身近にもいそうなキャラが勢ぞろい!物語が進むにつれ、どんどん見えてくる性格の違いがおもしろい。

 さらに6人に振り回されるガイドのトムをはじめ、一緒に山を登る4人の男性たちも、これまた個性派ぞろい!

 実は登山の前までは私生活ですごく親しかったわけではなく、それぞれが秘密や悩みを抱えていた。登山中に起きるさまざまな出来事と共に、各回1人ずつ、6人の赤裸々な事情が語られていき、すべてが結びついていく。

 全6回で1人ずつ明かされていく「ワケアリ」6人の隠された「ワケ」とは……。

 

 番組の紹介の文章に「人はみんな十人十色!がん患者と呼ぶ前に“わたし”がいる」とある。
 共通の接点「がん」がなければ、出会うこともなかったような6人。がんの状態も、普段の生活や性格も千差万別。「がん患者」とひとくくりにするのではなく、日常に「がん」という項目が加わった「わたし」たちの過去と今、これからの楽しみや苦悩を包み隠さず見せてくれている。

 

 私も元癌患者であり、セリフの一つ一つが良くわかる。

 日本のドラマ制作をしている人は、癌になった人は死ななければならないという固定観念がある。だから、私の元気になってしまう癌患者のお話も、どこへ持っていても却下されてしまっていた。死を迎える事でのドラマしか、頭に浮かばないらしい。視聴者がそれを望んでいるからが常とう句だ。
 

 今は、癌になっても元気に基に戻っている人もたくさんいるのに。さすが、海外の制作者の人は、色々な面から癌と向き合おうとしている事が解かる。

 

 今回見逃した人は、再放送が有ればぜひ。NHKプラスでもよいかも。お勧めです。

 フランスの女性の相棒の推理ドラマ「アストリッドとラファエロ」、イタリアの医療ドラマ「DOC」等、どの作品を観ても大人が十分楽しめた。

 

 この時間帯のプロデューサーの方には、賛辞の拍手を送りたい。