〇6月6日

 鈴木 清順監督の作品を続けて3作品観た。感想は纏めて。洋画も2本。

 

 私が20代前半の頃は、鈴木清順監督の作品を語れなければ、カッコよい映画ファンとは言えないほど、人気があった監督だった。

 松竹映画に入社後日活に移り、「清順美学」と評される独特の映像表現で名を馳せた。特に宍戸 錠主演の「殺しの烙印」は一般映画のみならずカルト映画としても世界的な評価が高い。

 一方でその実験的とも言える作風が当時の日活の経営陣の不興を買い会社を追われるなど、境遇は波乱に富んでおり、映画作家として約10年間の空白期間がある。活動再開後に撮った「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」「夢二」「大正浪漫三部作」と呼ばれている。

 清順監督の作品は、1度観ただけでは絶対に監督の主張を理解する事は出来ない。まして若い頃だから何回も映画館に足を運んだ記憶がある。

 本当に映像は美しいし、その映像に負けない女優陣の美しさがある。筆頭は大楠道代。大谷直子、加賀まりこ、そして夢二の余貴美子も今はあのような役は演じないだろう。

 レギュラーの様な原田芳雄、麿赤児。同業映画監督の出演者も良い。藤田敏八は元々俳優座出身の役者だから演技は出来るが、長谷川和彦も良い味を出していた。

 3作の中で何か一番良いかと言えば、勿論総合点で「ツィゴイネルワイゼン」なのだが、一人の役者としては「陽炎座」の松田優作が、従来のイメージを全く変えているので、違う意味でカッコよかった。但し、賛否は絶対にあるだろうが。

 久しぶりに連続で観た3作品。昔観たことを懐かしみながらだったが、ちょっと疲れてしまった。

 鈴木清順監督の作品は、続けて観ない事がお薦めだ。

 

 

 1980年公開の「ツィゴイネルワイゼン」を観た。内田 百聞の短編小説「サラサーテの盤」を原案に、4人の男女が、サラサーテ自らが演奏する「ツィゴイネルワイゼン」のSPレコードを取り巻く、現実と幻想の境が交差する妖艶な世界に迷い込んでいく男女の愛を描いたお話。

 1980年、東京タワーの下に建造されたドーム型の移動式映画館シネマ・プラセットで上映されたことも話題に。

上映時間2時間24分

 

 ジプシーの如く各地をさすらう中砂は、旅の途中で親友であり士官学校の独逸語教授・靑地と共に、弟を自殺で亡くしたばかりの芸者小稲と出会い、盲目の旅芸人3人の関係を噂する。

 その後、中砂は名家の娘である園と結婚するが、靑地は彼女が小稲と瓜二つであることに驚く。座敷で鍋を振る舞われる靑地は、園の自分が誰に似ているのかという問いに言葉を濁すが、中砂はあっさりと小稲という芸者だと答え、園は青ざめてひたすら手元の蒟蒻をちぎり続ける。食後に靑地は中砂の持つサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを聴かされ、その中のサラサーテ自身のものとされる声の聴き取りを頼まれるが、何を言っているのかは靑地にも聴き取れない。

 中砂はその後も気ままに旅を続け、旅先で小稲との関係を続ける。その後、中砂夫妻の間には娘の豊子が生まれるが、園は中砂が持ち込んだ悪性のスペイン風邪に倒れ、まだ赤ちゃんの娘を残して亡くなる。ある日靑地が中砂を訪ねると、豊子の乳母として現れたのは中砂と結婚した小稲であった。

 やがて、靑地は妻・周子の妹で末期の病で入院中の妙子から、周子が中砂と見舞いに訪れた際、中砂の目に入ったゴミを周子が舌で舐め取っていたと聞き、二人の関係を疑う。周子が中砂に強引に迫られ愛撫されるシーンが描かれ、その後花や果物の香りでアレルギーを起こすはずの周子が、体質が変わったといって腐りかけた水密桃を味わうようになる。しかし桜吹雪の季節に、中砂は旅先で麻酔薬を吸ったことが原因の事故で死んでしまう。

 その5年後、小稲は幼児に成長した豊子を連れて靑地家をたびたび訪れ、中砂が靑地に貸したままの蔵書を返すよう求める。ついには「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを求められるのだが見つからない。

 実はそのレコードは周子が隠して持っていたことが分かるが、周子は中砂との関係は否定する。靑地はレコードを持ち中砂家を訪ねる。小稲は生前の中砂の不実に悩んでいたことを語り、彼の残したものを全て手元に置きたいという。

そして彼の血を引く豊子を心からかわいがっているといい、今まで取り戻した蔵書は中砂の霊が娘と会話して靑地の元にあると語ったのだというが、豊子の姿が見えないことに気付き取り乱す。靑地は中砂家を出てゆくが、帰り道で豊子に会う。

 豊子は靑地に中砂が生前約束していたように骨をくれといい、生きている者は本当は死んでいて、死んでいる者が生きているのだという。靑地は逃げるが、その先の海辺では豊子が白菊を飾った小舟とともに待っている。

 

出演  中砂糺:原田 芳雄

中砂園、小稲の二役:大谷 直子

    青地豊二郎:藤田 敏八、青地周子:大楠 道代

その他 麿 赤児山谷 初男玉川伊佐男樹木 希林

佐々木すみえ、真喜志きさ子  等々。

 

第54回キネマ旬報ベストテン第1位

第31回ベルリン映画祭特別表彰

第23回ブルーリボン賞最優秀監督賞

第4回日本アカデミー賞 監督賞、助演女優賞(大楠道代)

  最優秀作品賞

  ※2009年「沈まぬ太陽」に破られるまで、

   受賞作の上映時間最長記録

※独立系映画としては初めての最優秀作品賞受賞

 この他、主演女優賞・大谷直子、助演男優賞・藤田敏八

     脚本賞・田中陽造。

 

 

 1981年公開の「陽炎座」を観た。「ツィゴイネルワイゼン」の成功を受けて移動式映画館シネマ・プラセットの第2弾作品として製作された「大正浪漫3部作」の2作目

 泉 鏡花の同名小説を原作に、偶然知り合った美しい女に翻弄され生と死の境を彷徨う、劇作家の姿を華麗な色彩美の映像で描く。上映時間2時間19分

 独特な映像美と難解な物語の進行が見るものを困惑させる作風は前作同様である。鈴木清順監督の代表作の一つで、「フィルム歌舞伎」と呼ばれた。

 

 1926年、年号が大正から昭和に変わった東京。新派の劇作家である松崎は、名も知らぬ美しい人妻と出会う。その後も偶然による2度の出会いを重ね、品子と3度も出会う。2人は一夜を共にするが、その部屋が自分のパトロンである玉脇男爵の妻・品子の部屋であったことに驚く松崎。

 玉脇には二人の妻がいると知る松崎。先妻は留学中に見初めたドイツ女性のイレーネで、玉脇は金髪を黒く染めさせ、日本人のイネとして共に帰国した。しかし、後に玉脇が妻としたのは、金の力で手に入れた伯爵令嬢の品子だった。病院前の階段でイネと出合い、会話する松崎。だがその時間には、イネは病室で息を引き取っていたはずだった。

 やがて品子から「4度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません」と心中を誘う文を受け取った松崎は、品子がいる金沢へ向かうが……。

 指定の旅館に急ぐ松崎。玉脇も金沢に向かい、品子との心中をしつこく松崎に仕向け続けた。逃げ出して、奇妙な芝居小屋・陽炎座に辿りつく松崎。品子と玊脇もあとをおって来た。

 陽炎座で芝居を演じる子供たち。妖怪の芝居は、いつしかイレーネの物語になっていた。妻となるはずが日陰の身とされ、苦しむイレーネ。品子も舞台に上がり、後妻になれと強要された恨みを語って、復讐のために松崎と不倫した経緯を吐露した。

 陽炎座は崩れ落ち、池で心中死体が上がったと騒ぐ村人たち。心中したのは玊脇と品子だった。だが、品子は死んでいないと信じる松崎。祭ばやしが鳴り響く中、不思議な部屋で品子を見つけた松崎は、現実世界の自分に一礼すると、品子と背中合わせに着席した。

 

出演  松崎春狐:松田 優作、品子:大楠 道代

    玉脇男爵:中村嘉葎雄、イネ:楠田恵理子

    みお・加賀まりこ、師匠:大友柳太朗

その他 原田 芳雄麿 赤児佐野 浅夫玉川伊佐男

    佐藤B作内藤 剛志  等々。

 

1981年キネマ旬報ベストテン第3位

第5回日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞・中村嘉葎雄

   優秀作品賞、優秀撮影賞、優秀照明賞受賞

 

 

 1991年公開の「夢 二」を観た「ツィゴイネルワイゼン」(1980)、「陽炎座」(81)に続く鈴木清順監督の「浪漫3部作」の完結編で、大正から昭和にかけて活躍した画家・竹久夢二の半生を幻想的に描き出す。荒戸源次郎事務所製作。
 1917年、金沢。恋人の彦乃と駆け落ちするため夢二は金沢の湖畔へやってくるが、そこに彦乃は現れず、さらには静かで小さな村に突然の銃声が鳴り響く。妻を寝取られた男・鬼松が、妻と妻を寝取った男を殺して山に逃げ込んだようなのだが……。

 約束の恋人は現れず、芸術家としての苦悩にも悩まされていた夢二は、湖上で人妻に出会い、逢瀬を重ねるが……。


出演  主役の夢二には「カポネ大いに泣く」(85)に続き

    清順監督作の主演となった沢田 研二

    脇屋巴代:毬谷 友子、脇屋:原田 芳雄

    彦乃:宮崎 萬純、お葉:広田玲央名

    鬼松:長谷川和彦、稲村御舟:坂東玉三郎

その他 大楠 道代宮城千賀子麿 赤児余貴美子

                    等々。

 

第44回カンヌ国際映画祭・ある視点部門出品

 

 三部作のうちでは前2作よりも評価において後塵を拝する印象が強いが、飄々とした軽やかな雰囲気を高く評価する向きもある。また、三部作中唯一、原作が存在しないオリジナルの作品。

 

 

 1989年公開の「ブラインド・フューリー」を観た。1967年公開の三隅 研次監督「座頭市血煙り街道」を下敷きに、友人を救うため麻薬組織に戦いを挑む盲目の元ベトナム兵士の姿を描くアクション。監督はフィリップ・ノイス、脚本はチャールズ・ロバート・カーンズ

 勝プロダクションから正式に許諾を得て製作されたアメリカ版『座頭市』。原題は「盲人の激怒」と「周りが見えないほどの怒り」をかけたものと言われている。

 キャッチ・コピーは「人間刃!」

 

 ベトナムに派遣されていたニック・パーカーは、迫撃砲の爆発で失明した。ベトナム人に助けられたニックは、怪我から回復し、盲目のままではあるが、他の感覚を使いこなす訓練を受け、剣の達人となった。

 20年後、アメリカに帰国したニックは、かつての戦友であるフランク・デヴローを訪ねるが、フランクは行方不明となっていた。

 ニックは、フランクの息子ビリーと、フランクの元妻でビリーの母親リンに出会う。その数分後、麻薬組織のボス、クロード・マクレディの部下であるスラグが、フランクを脅迫するためにビリーを誘拐しに2人の汚職警官を連れてやって来る。ニックの活躍により警官たちは倒されるも、ビリーは気絶し、スラグはリンに重傷を負わせて逃走する。リンは最期の言葉として、ビリーをネバダ州リノにいるフランクのもとへ連れて行くようニックに伝える。

 リノへ向かう途中の休憩所で、ニックはビリーに母の死を伝える。ビリーはニックから逃げ出し、スラグと子分たちにつかまってしまう。ニックが2度もビリーを助けたことで、スラグは逃げ出し、ビリーとニックは互いに親しみを覚えるようになる。

 リノにたどり着いた二人は、フランクの恋人アニーを見つけ、フランクのもとへ連れて行くように頼み込む。しかし、マクレディの手下に誘拐されそうになったところを逃れたアニーは、友人のコリーンの家に身を隠すことを2人に提案する。

 アニーはニックをマクレディのカジノに連れて行くが、そこではフランクがマクレディの麻薬を作っていた。アニーはビリーを見守るためにコリーンの家に戻り、ニックはフランクを助ける。

 ニックとフランクは再会、そして戦いが………。

 

出演  ニック:ルトガー・ハウアー

    フランク:テリー・オクィン

    ビリー:ブランドン・コール

    アニー:リサ・ブロンド、リン:メグ・フォスター

    マクレディ:ノーブル・ウィリンガム

    麻薬組織のボス:ショーン・コスギ

 

 少年の冒険と成長、友への赦し、マフィアとの戦い等、見所はたくさんあった。賭場の代わりがカジノでイカサマを見破って用心棒と悶着が有ったり、アメリカらしくトウモロコシ畑で戦ったり、元ネタの映画は観ていないが、しっかりしている作品らしく、今作にも反映されている。

 アメリカでは考えられないような主人公の設定だろうから、スタッフも楽しんだことだろう。

 車を運転したことは行きすぎだと思う事と、しょうがない事だが、やはりチャンバラ部分がちょっと残念な殺陣だったような。

 でも、作品としては、合格点は出せるのではないか。

 

 

 

 2016年公開の「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」を観た。原作は、2009年発行のデヴィッド・グラン「ロスト・シティZ探検史上、最大の謎を追え」。監督は「エヴァの告白」ジェームズ・グレイ。日本公開は2018年。

 ブラッド・ピット率いる映画製作会社PLAN Bプロデュースのもと、インディ・ジョーンズのモデルになったと言われる伝説の探検家パーシー・フォーセットの冒険を描いた実話アドベンチャー映画。

 

 20世紀初頭のイギリス。アマゾン奥地にあるという黄金の古代都市エル・ドラードの存在を信じる探検家フォーセットは、知識人層から嘲笑され、そして、危険なジャングルで何度も命の危機にさらされながらも、資金とクルーを集めては探検を繰り返していた。

 はじめのうちは協力的だった家族や仲間たちも、次第にパーシーに愛想を尽かすようになっていく。それでもアマゾンに執着し、奥地に伝説の古代都市Zがあると信じ、夢を追い続けるフォーセットだったが……。

 そんな彼は1925年に消息不明となった。「彼は奥地で何かを発見できたのか」、「彼はどんな最期を迎えたのか」という謎だけが残された。

 

出演  パーシー・フォーセット:チャーリー・ハナム

    ヘンリー・コスティン:ロバート・バティンソン

    ニーナ・フォーセット:シエナ・ミラー

    ジャック・フォーセット:トム・ホランド

その他 エドワード・アシュレイアンガス・マクファーデ

    ンイアン・マクダーミドフランコ・ネロ

    ハリー・メリングアダム・ベラミー   等々。

 

「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」という、いかにもハリウッドらしい大味なアクション・アドベンチャー映画っぽいタイトルからは想像もできないほど、全体的にシリアスな物語が続く。

 しかし、私は途中で真剣に観る事は挫折してしまった。私的には、スリルドキドキの冒険アベンチャーの方が良かったかもしれ