和の会能楽師インタビュー Vol5.宝生流シテ方 川瀬隆士さん
能にかける思いから、舞台裏やプライベートの話まで。
宝生流期待の若手能楽師5人の生の声を週替わりでお届けします。
Vol5.宝生流シテ方 川瀬隆士さん
Q1.能楽師になったきっかけを教えてください。
A1.私の親は能楽師ではないのですが、地元新潟で謡や仕舞を習っていました。ですので、両親の影響で物心がつく前から能には身近な環境にいたんです。6歳になる頃には私自身も稽古を受けるようになりました。でも、親に言われるがまま始めたということもあり、中学生になると一旦は能の世界から遠ざかってしまいました。
能をもう一度始めたのは高校2年生の時です。師匠の渡邊荀之助に出会い、本気で能の道に進もうと決めました。師匠に出会い、接する中で、能のすばらしさに改めて気づくことが出来たんです。
とは言っても、最初の頃は考えも浅く、今思えば信じられないような不謹慎な服装で稽古場に行ったりしてました(笑)。でも、師匠はそんな私にも真剣に向き合い、稽古をつけてくれました。そんな師匠の人間的な底知れない魅力に惹かれ、「いつか自分もこんなカッコイイ人になりたいな」という感情を抱くようになっていったんです。
もちろん、家柄のない者が玄人の能楽師を目指すということは簡単なことではありません。そのことは師匠も分かっていたので、初めは許してもらえませんでした。でも、気持ちは捨てられず、東京芸大へ進路を決め、真摯に能の稽古に取り組むようになり、だんだんと認めてもらえるようになっていきました。
今思えば、能楽師を目指したきっかけは『能楽が好き』ということはもちろんなのですが、当時は単純に師の人間的な魅力に惹かれて、というような不純な動機だったのかもしれません。
A2.内弟子なので、定休というものがなく、実はほとんど休みがありません。
それでも、たまの休みには能楽以外のことでリフレッシュしてます。地元の仲間で集まってバーベキューしたり、冬にはスノーボードしたり、去年の夏にはスカイダイビングも始めました。結構多趣味なんですよ。
それに、昔からバイクは大好きです。カワサキZRXが愛車で、学生時代はよく乗ってました。名前は隆星号っていいます(笑)。
あ、最近はギターも始めてます。もともと高校生の時にバンド活動をしていたんですが、稽古が終わった後などに気分転換もかねて弾いてます。
Q3.今後の抱負をお願いします。
A3.「あの役者いいね」と観ている方に言ってもらえるような能楽師になりたいです。
舞台に立っていて自然で、なるべく違和感のない演者になることが目標です。
今年で内弟子になって4年ですが、能はやればやるほど奥が深く難しい世界だと実感しています。「芸心一如」。心に魅力のある人は芸にも魅力があるという意味だったと思うのですが、師匠の渡邊荀之助に教えていただいた言葉です。私もこの言葉をモットーに、シテを目指して、いただいた役、ひとつひとつに一生懸命取り組んでいこうと思っています。
プロフィール
1984年新潟県三条市生まれ。高校2年生で宝生流シテ方 渡邊荀之助氏に出会い、本格的に能楽の世界に入る。2004年、シテ方宝生流第19代宗家宝生英照氏に入門。東京芸術大学邦楽科在学中の2005年、「右近」のツレで初舞台を踏む。