和の会 能楽師インタビュー Vol1.宝生流シテ方 高橋憲正さん | 和の会 BLOG

和の会 能楽師インタビュー Vol1.宝生流シテ方 高橋憲正さん

能にかける思いから、舞台裏やプライベートの話まで。
宝生流期待の若手能楽師5人の生の声を週替わりでお届けします。


Vol1.宝生流シテ方 高橋憲正さん


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Q1.能楽師になったきっかけを教えてください。


A1.実は、高校の途中まではまさか自分が能楽師になるとは思ってなかったんですよ。職人系の仕事…車の構造について勉強していたこともあって、自動車修理の仕事につこうかなと思っていました。でも、金沢の父の楽屋に働きの身として足を運んだことがきっかけで、能楽へ踏み込むことになったんです。父も「どうでもいいよ。」と口では言いつつも、僕をその道へ進ませる方向に導いていたのかな。能楽師である父の影響です。


 それで芸大を受験して、受かりました。高校2年のとき、軽い気持ちで選択制教科・科目の世界史を「楽典」に変えていたんですよ。幼少のころから父から学んだ仕舞・謡と合わせて、3つの力が揃っていたのが幸いしたと思います。今になって振り返れば、大学には本当に行ってよかった。何事も遅咲きだけど、大学3年のときにまわりを見て、俺も本気で能の道に、と本腰を入れました。


 そういえば、僕、よく「観世っぽい」って言われます。能自体、今変革期に来ていると思うんですね。違う流儀を観ることで、自分たちの長所も短所もわかる。「井の中の蛙」にならないように、他の流儀からエキスをもらいつつ、能としての価値を高めていくべきなんじゃないだろうか。縦割り社会の中で、あえて僕らの世代がこうあるべきだと思っています。



Q2.休みはどう過ごしていますか?


A2.昼間はほとんど寝てますね。エンジンがかかるのは遅いです(笑)。夜の10時ぐらいから、こっそり稽古をしたりすることもありますよ。でも僕、頑張っているところや努力しているところを人に見られたくないんですね。ほとんどの活動は夜が中心です。昼間の雑踏が嫌いだし、舞台に立つ人物であることはプライベートでは伏せたいと思ってるんです。あくまで自営業。「俺を見ろ」的なことは実は嫌なんですよ。


 そうそう、世阿弥の本を読んでこっそり勉強もしますよ。今さら?と思いますよね。でも今の年齢だから感動できることもあるんです。家の中は結構仕事の本だらけですよ。


 中学ではハンドボール部、高校では剣道部に入ってましたし。今はトレーニングでも始めようかなと考えています。最近、和の会の中で筋肉がついてきたメンバーがいるんですけど、「憲さんもゴールドジムどうっすか?」って、通ってるジムを紹介してくれたこともあって。昔から格闘技が好きで、プロレスラーを夢見たこともあったかな。今もプロレスの入場曲を家でこっそり聴いたりしてますけど、身体も鍛えないとね、筋肉できれいだった17~18歳頃の身体に戻りたいですし。30歳を越えて、肩こり、膝・腰の痛みを自覚しました。仕事の正座も、正直キツイ。いつまでも慣れませんね。


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 食事?いやぁ、食べたい時に食べています。お酒は飲まず、タバコ大好き。髪の毛は宝生能楽堂に近い「CUTSTUDIO25 KOISHIKAWA」で、もう十年来カットしてもらってます。洋服ですか…人ごみが嫌いなので、金沢に帰ったときに一人で出掛けて買ってきます。家では浴衣なんか着てませんよ。夢を壊しますかね、能楽師も家ではシャワーのあと、ジャージです。


 ドラマもはまってます。「FRINGE(フリンジ)」と「ゴースト」をレンタルして次々見ました。つくづくインドア派ですね…。生活時間がくるってしまうこともしばしば。家に空き缶がゴロゴロしてますよ。それから…好きな女の人のタイプですか…よく人からは、「憲さんは不思議ちゃんが好きだ。」と言われます。ぽわっとしている人がいいですね。芸能人だと、相武紗季!!



Q3.今後の抱負をお願いします。


A3.「道成寺」も終わり、12月の「乱」が一区切りになるので、そこに向けてまずは日々精進すること。そして、今後も宝生流能楽師として、謙虚かつ毒舌に家元を支え、家元の思いに応えていくこと。家元の思いを形にするのが僕らの仕事だと思っています。今、世阿弥の室町時代から700年の時を経て、やり方、体制ともに変革期を迎えている。お弟子さんが稽古のために舞台を観ていた時代は終わった。いかに能楽に携わっていない人々が足を運び、心を動かしてくれるか。今までといっしょではいけない。だから和の会も必然的に生まれたんだと思う。何かを形にしていく時期が来ているんじゃないだろうかと感じています。


 今年で36歳。生まれ育った金沢で18年、そして東京で18年。ちょうど半分の節目となる年です。金沢での仕事も東京での仕事もそれぞれに充実させたいと思っています。今回、「橋弁慶」(お囃子)で弁慶を演じますが、最初、話があったとき、自分は牛若だと思いました。弁慶の露骨なキャラに合ってないでしょ?顔白いし。でも、弁慶と牛若の戦うシーンは見応えがありますよ。ご期待ください。



プロフィール
1976年金沢市生まれ。父は宝生流能楽師 高橋右任氏。東京芸術大学邦楽科卒業後、宝生宗家の内弟子となる。初シテは2004年の「草薙」。2007年に大曲「石橋」を披き、同年独立。「体感する能―船弁慶―」では弁慶を演じる。