どうして「彼女」のまわりの空気って、こんなふうにきらきらしているんだろう。


 

スポットライトが当たっているような派手なきらきらじゃなくて。

 

小さな光の粒みたいなものがふわふわ漂っているようなきらきら。

 

 

「わたしの顔、何かついてる?」


 

不思議そうに僕の方を見て、「彼女」がまばたきをする。


 

「えっ、あっ、いや、あの、何でもないです」

 


どきまぎしながら答えると、「彼女」はあえてなのかそうじゃないのか、全然違う話をはじめる。

 

 

「ねえ、このお土産で配られたお菓子、すごく美味しかったよ」

 

 

そして微笑みながら、誰かの出張のお土産で配られたお菓子をつまんで、ぱくりと食べた。

 


「あ、それ……」

 


僕はぽかんとしてしまった。

 

「彼女」が口に運んだのは、僕のデスクの上にあった、僕の分のお菓子だったからだ。

 


「え? ……あっ、間違えちゃった……?」

 


びっくりした顔で「彼女」が言う。


 

「私の机かと思って、間違えちゃった。ほら、となり同士で、机が繋がってるから。そうだ、私に配られた分を代わりに渡せば……あっ、私、自分の分もう食べちゃったんだった」

 

 

デスクがとなりでくっついているからって、間違える?

 

しかも自分の分はもう食べてるのに、それを忘れてうっかり他人のお菓子を食べる?

 

そんなことある? と思うようなことを、時々素でやるのが「彼女」だ。

 

 

「ごめんね。今度買い直してくるから、許してくれる?」

 


ほんとうに申し訳なさそうに頭を下げる姿に、怒るどころか吹き出すのをこらえるのに僕は必死だ。

 


そして、こんなときでさえ彼女のまわりの空気は、相変わらずきらきらしているのだった。

 

 

 

 

::*:::*:::*::

 

 

魚座さんのshort story でした。

 

魚座さんって、

やさしくて、夢見がちで、

どこか浮世離れしている雰囲気の

ひとが多いです。

 

そして、本人は無自覚だと思うのですが

まわりに妖精さんがふわふわ浮いていて

光の粒をまいているのかな? って感じの、

きらきらした雰囲気をしています。

 

とくに金星星座が魚座の方は

このきらきら感が強いひとが多くて

率直に言ってモテます。

 

 



 

石井ゆかりさんの著書、

「石井ゆかりの星占い教室のノート」

で、魚座さんについて

こんなふうに書かれています。

 

 

会社とかでおみやげを

誰かが買ってきて、

少しずつこうティッシュをしいて、

みんなに分けていったときに、

魚座のひとは

「あ、美味しそう!」って言って

隣の机から食べちゃうっていう

ですね……

 

「石井ゆかりの星占い教室のノート」

著:石井ゆかり

 

 

このエピソードをもとに

今回の short story を書きました。

 

太陽星座も月星座も魚座の友人が

いるのですが、

まさに彼女がこんな感じの

天然っぷりを時々発揮するのです。

 

石井ゆかりさん曰く、

「机と机の境界が見えていない」

みたいなところがある故の

行動らしいです。

 

確かにその友人もすごくやさしくて、

誰かが泣くと同調して泣いちゃう

ようなところがあって、

そのあたりも「自分」と「他人」の

境界が曖昧なんだろうなぁと

思います。

 

 

ちなみに「境界が見えていない」のは

ほかの柔軟宮の星座さん

(双子座、乙女座、射手座)も

みんな表れ方は違えど

似たようなところがあるようです。

 

 

実は私もしょっちゅう

ほかの人のボールペンを借りて、

そのままナチュラルに自分の

胸ポケットにしまってしまうような

真似をします。


(気をつけなければ……。)

 

 

太陽星座:射手座、Asc星座:乙女座の 

森下 夕