ちょっと早い盆休みを取り、息子のお墓の掃除のついでに伯母の家に寄った。
伯母は独り身で、畑でいろんな野菜を作るのが趣味の女傑である。
美味しいお茶をいただいて、最中を食べながら世間話をしていた時に、
すぐ近くの幼稚園から園児たちの悲鳴が聞こえて来た。
幼稚園なので、時々は園児の泣く声が聞こえるものなのだが、今回の悲鳴は園児ほぼ全員が一斉に泣いているように聞こえる。しかも尋常ではない泣き方だ。
伯母と顔を見合わせて、
「ちょっと様子みてくる」と私は立ち上がった。
幼稚園の様子を見に行くことにしたのだ。
立ち上がる私に、伯母が
「理由がわかったら教えて」と言った。
伯母の家から庭に出ると、すぐそこに木造の園舎と広い園庭が見える。
園庭には古いがよく整備された遊具がいくつかあるが、園児たちはそこにはおらず、園庭から外れた草むらに立って泣いていた。
オロオロしている先生たち。
伯母の宅の敷地と幼稚園の敷地は隣接しているため、低い木の柵で仕切られているだけだった。
私はその柵の外側から先生たちに声をかけた。
「どうしたんですか?」
先生が黙って指差した先には、畑があった。
その畑に十数本はあろうかと思われる、とうもろこしの茎が倒れて、実がボロボロに食い荒らされていた。
アナグマの仕業だ!
私は瞬間的に理解した。
アナグマはとうもろこしが大好物。
しかも熟れた甘いとうもろこしから食べる。
熟れ頃だから収穫しよう、と思って畑に行くと食い荒らされていて一本も残っていなかった、なんてことがよくあるのだ。
聞けば春先に幼稚園児みんなで畑にとうもろこしの苗を植え、夏休みの登園場である今日、収穫して食べる予定だったとか。
ワクワクして畑に行ってみると、食い荒らされて一本も残っていなくてこの有様だと。
昨日夕方、園長先生が畑を見た時には何も異常なかったそうだ。
私は踵を返すと、伯母宅に戻り、幼稚園児が何故泣いているかを説明した。伯母は倉庫の軒下に吊るしてある白い土嚢袋をとると私に手渡した。
土嚢袋の中にはざっと15本ほどのとうもろこしが入っていた。
入っているとうもろこしは、黄色い実の所々に紫色の実がある、この土地では「餅トウキビ」と言われる品種だ。
「今流行りのとうもろこしほど甘くないけど、噛むともちもちして美味しいんだよ。持っていきなさい」
と伯母は笑う。さすが元教育者。
私は園長先生に伯母の言葉と同じ説明をしてとうもろこしを手渡した。園児は30人弱なので、一人当たり一本の半分は食べられそうだ。
茹でるための調理鍋などは準備してあったそうで、とうもろこしは無事、園児たちのお腹に収まったと、その日の夕方、伯母に連絡があったそう。
あらから20年。
息子の墓と一緒に伯母の墓の掃除も私の仕事になってしまった。
あの時の園児たちはもういい大人になったのだろう。
とうもろこしのこと、覚えているかなぁ。