捨て身で。ということではなくて。


大切な人がいた。

彼のDVや浮気に悩み、病んでいた。

自律神経失調症で思うように動けず、鬱の症状に悩んでいた。

そんな彼女はピアスが大好きで、田舎でピアス専門店を出すのが夢。

しかし、彼の行動によって苦しんでは通院して、いつまでたっても社会復帰できずにいた。


すでに彼女と曖昧な関係になっていた僕は、いっそ別れたらどうでしょうかと打診する。

部屋も借りて、動けないなら足も用意した。

養うというには心許ないが、手に職を持っていて食いっぱぐれない。


彼女は嬉しそうにしてくれた。涙も流していたが、

また優しくされて裏切られるのが怖いという。

僕としては彼女が幸せならなんでも良かった。

彼を選んで、結婚して、夢を叶えて、幸せを感じてくれるのならば僕は出来ることをやって振られただけで良かった。

その後すぐに彼女は自宅で一足先に旅立った。


その少し前、彼女から来世で結婚しようと言われた。もはやこの世に希望などなかったのだろう。

死ぬな。生きろとなんて、

両親との関係、彼だけじゃない、その前の彼の裏切り、自殺未遂。努力家で誰より優しい故の心の病。

それを知った上では到底言えなかった。


それからは彼女に会うことを楽しみに生きるようになった。残りの人生を消化試合のように考えて生きていた。1年もすれば好きになってくれる人ができたが、一度もセックスしなかった。


彼女の死から3年が経ち、思い出しても涙が出なくなって来たころ、急に今の彼女がずっと支えてくれていた大切さに気がつきはじめた。それと同時に後悔が襲ってきた。なんて失礼なことをしてきたのだろうと。傷んだ心を癒やすのに精一杯で周りが見えていなかった。

一緒にいることを選んだのは彼女だ。だから申し訳ないと思うのは間違い。僕を支えてくれてありがとうと感謝して、別れてほしいと告げた。


現世を幸せに生きることを諦めていたと思う。

仕事でもプライベートでも、一生懸命にやっていたつもりでも、今ならわかる。どこか心此処にあらずで他人事だった。


もう一人別れる必要がある。

これが本当に辛かった。

来世で会うことを心の拠り所にしていたのだから。死さえも受け入れられるどころか、待望していたのだ。ある意味怖い物知らずでいられた。物怖じしない強さを与えてもらったことは間違いない。

しかし、こんなことは辞めるべきだと。傷を癒やすまで3年も掛かけて、その間に傍で支えてくれた人を心から愛せず。

だから故人にメッセージを送った。

もうあなたに会うことを楽しみにしない。

現世を幸せに生きることを諦めない。

来世でももう会えない。

目の前のやるべきことを真剣にやる。大事な人を大切に今を生きると伝えた。


それから驚くほど仕事に活力が生まれた。

お客様一人一人に寄り添えるようになった。

また僕にお願いしたいと言う方も増えた。


今を生きることの大切さを気付かせてくれるまでが彼女の役割だったのかもしれない。心から感謝を送る。さようなら。


ここからさらに成長したい。

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ