「ほしこちゃん、ちょっといい?」
部活が終わって楽器を片付けていたらノリくんに声をかけられた。
もともと同じ金管楽器担当なので、演奏のことかなと思い隣の音楽室についていく。
「なんですか?」
「あのさ、うち帰ったらさ、電話していい?」
当時まだポケベルもない時代。
電話も家の電話しかない。
なのでまず一言言ってから電話することが多かった。
「今じゃダメなんですか?」
「うん、ちょっと長くなりそうだし。電話したい」
『電話したい』という言葉に特別な感じを覚え、嬉しくなったあたしはOKの返事をした。
その夜。
7時頃電話がかかってきた。
自分で受話器を取った。
「なんかごめんね」
「ううん、大丈夫ですよ。でもどうしたんですか?なんかあったの?」
「俺とあいつ付き合ってるの知ってるでしょ?」
いきなりの一言で喜んで電話に出た自分の気分が一気に落とされたのがわかった時には
「うん、それで?」
「相談に乗ってもらいたいんだ。同級生はあいつの友達ばかりだし言いづらいけど、ほしこちゃんだとなんでも話せるから」
正直、グサっときた。
なんだよそれって。
こうなったら相談に乗りつつ別れさせてやっちゃうぞおい、って思った。
「うん、いいよ」
「実はあいつさ、年明けたら引越すんだ。結構遠いとこに」
「え?」
「それであいつは大晦日になったら別れようって言ってきて。でも俺はそんなことできない。あいつのこと好きだし。あいつにも俺と別れたいのかって聞いたら、好きだし本当は別れたくないけどだけど遠距離は怖いって言って…」
正直、じゃあ別れればいいのにと思った。
思ったけど口では違うことを言っていた。
「何弱気になってるんですか。好きなんでしょ?向こうも好きだ、別れたくないって言ってるんでしょう?だったら答えは決まってるじゃないですか。どうして遠距離無理って弱気になるんですか!」
「…無理…じゃないかな?」
「無理じゃないですよ!別れたくないんでしょ?だったらできる。絶対」
「…うん」
「先輩があの先輩に言いにくいなら私言いますよ」
「あーいやそれは…」
「じゃ、自分で言いましょう!」
「うん…ありがとう。なんか…スッキリした。ほしこちゃんに話してよかった」
電話はそれで終わった。
ありがとうって言われて嬉しいのと離れそうだった2人を自分でまたくっつけようとしてしまう行動をした自分に腹立たしいのとが一つになって複雑な気分だった。