「カレーの匂い」第153回「カレーの匂い」153回 もともと、星也母子に厭きて、 嫌いになったからこそ、 あの赤ん坊の元へ走ったわけだから。 星也は足を棒にして、 帰って来たその晩、真夜中過ぎに 起き出して、キッチンの引き出しから ライターを取り出した。 母親は寝静まっていた。 やつが父親の家出する前後辺りから、 メンソール煙草を吸うようになって いたのを、 星也は嗅ぎつけていたから、 奴のライターを盗み、 夢遊病者のように戸外へ出た。 半覚半醒の状態で、駅の方まで行き、 線路を越えて駅の反対側、 山寄りの道をとぼとぼ歩いた。