鯨の入り江(50) | 星ねこブログ

星ねこブログ

猫好き&詩&小説のコラボマガジンです

鯨の入り江(50)


ーー何かしゃべって、聞いてあげる、聞いてあげるーー


 綾は必死に呼びかけたけれど、クジラは何も語ろうと


しなかった。
秘密基地


 夜空を焦がすかがり火を背景に、男が一人


するすると見上げるばかりのクジラの背中に、よじ登ってゆく。


一番刀を入れるのはいつも解剖長に決まっていた。


 クジラを初めて眼のあたりにした夜の記憶は


そこで途切れる。


綾と波美はもう夜が遅いからと父親に叱られ、
ポーズ

無理やり家に帰された。


解体作業は夜を徹しておこなわれた。


 クジラ浜では一晩じゅう、煌々とかがり火が焚かれていたし、


父も母も翌朝まで帰ってはこなかった。