鯨の入り江(45)
あんなに明るく海を照らす船など、綾はめったに見
たことがなかった。
あとから考えると、クジラ船は初めての入港に際し
て、ありったけの光源を総動員し、
出迎えに来た村びとたちに
妹の波美は母の背中に負ぶわれていた。
人垣の中には鉄男の顔もあった。
大人たちが、目印にと灯した松明(たいまつ)が暗
い波間にゆらゆらと
赤い灯影を反射させていた。
イルカの鼻みたいに先端が長く突き出た捕鯨船
乗組員が鋼鉄の太いロープを数本、岸へ投げた。
最初の船に気をとられているうちに、
もう一隻の別の船が接岸して来た。