【サザンの楽曲「勝手に小説化」⑩】『彩 ~Aja~或るシンデレラ・ストーリー』(原案:桑田佳祐) | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が大好きなサザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、

私が勝手に「短編小説」を書かせて頂いている、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」であるが、これまで私はサザンや桑田佳祐の歌詞を元に、9本の「短編小説」を書いて来た。

 

 

これまで、私が書いて来た、「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「短編小説」は、下記の9本である。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1994)

 

いずれの作品も、「原案:桑田佳祐」として、

私が敬愛する桑田佳祐氏が書いた歌詞を元にして、私が勝手にイメージを膨らませて、物語を書かせて頂いたが、

今回は、その「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第10弾」を書かせて頂く事としたい。

そして、今回、私が題材に選んだのは、2004(平成16)年のサザンオールスターズの楽曲『彩 ~Aja~』である。

 

 

『彩 ~Aja~』は、サザンにしては珍しく、「春」の季節の曲であり、

春らしい爽やかなサウンドをバックに、この曲の語り手が、かつての恋人を懐かしんで歌っているという、言わば「失恋ソング」だと思われるが、爽やかな中にも切なさが色濃く滲み出た、サザンらしさが存分に発揮された曲であり、私も大好きな曲である。

という事で、前置きはそれぐらいにして、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第10弾」、『彩 ~Aja~或るシンデレラ・ストーリー』を、ご覧頂こう。

 

<序章・『初恋』>

 

 

私は、これまで生きて来た中で、色々な女性に恋をして来た。

しかし、私の生涯で、本当に心の底から好きになった女性は、ただ1人である。

その女(ひと)と私は、思わぬ所で出逢い、気が付くと、お互いに離れられない間柄になっていた。

私にとって、あんなに好きな女(ひと)に出逢ったのは、後にも先にも、あの時だけである。

そういう意味では、私にとっての本当の「初恋」と言えるのかもしれない。

その私の「初恋」の女(ひと)…「彩(あや)」の思い出を綴ってみる事としたい。

 

<第1章・『緑の館』>

 

 

私は子供の頃から、写真を撮る事が大好きであった。

私の父が、趣味で風景写真を撮っており、なかなか良いカメラを持っていたのだが、

父の影響で、私も子供の頃から、写真に興味を持った。

ある時、父からカメラを貸してもらった私は、その辺の風景を撮りまくった。

そして、現像した写真を見た父が、

「お前、なかなか筋が良いな」

と言って、私を褒めてくれた。

父の言葉に、すっかり調子に乗った私は、ますます写真にハマって行った。

ところで、私の家の近所で「緑の館」と呼ばれている、お城のような形の結婚式場が有ったのだが、

ある時、その「緑の館」で、とても素敵なカップルが結婚式を挙げていた。

私は、関係者でもないのに、その結婚式場に潜り込み、その結婚式の写真を撮りまくった。

その後、その結婚式の写真を現像してみると、我ながら、かなり美しい写真が撮れていた。

 

 

「この写真、芸術的で良いと思うぞ」

私の父は、その写真を見て、本当に感心していた。

勿論、親の贔屓目も有ったと思うが、私の父は本当に、私の写真の腕前を認めてくれていた。

そして、父が懇意にしていた近所の写真館に、私が撮った写真を持って行ったところ、写真館の主人も、

「坊ちゃん、とても良く撮れてるね!!」

と、ビックリした様子であった。

その写真は、写真館のショーウィンドウに、暫く飾られていたが、私はとても誇らしかった。

それが、私が写真家として歩み始める第一歩だったが、この時、私はまだ10歳かそこらであった。

今にして思えば、その頃は、ただ写真を撮る事が楽しかったから、偶然にもそんな良い写真が撮れたのであろう。

 

<第2章・『マイ・フェア・レディ』>

 

 

「僕は、将来、絶対に写真家になるんだ!!」

私は、大人達に褒められた事で、すっかり「その気」になり、ますます写真にハマって行った。

そして、将来は写真家になるのだと、自分の将来を決め込んでしまった私は、自分なりに写真の撮り方を研究するようになった。

私は、風景写真よりも、好んで人物の写真…中でも、女性の写真を撮る事が好きであり、同級生の女の子を「モデル」にして、写真を撮ったりするようになっていた。

時には、女性向けのファッション雑誌を読み、

「女性とは、このように撮れば、美しく撮れるのだな」

という事も、自分なりに学んで行った。

私は、プロのカメラマンになるためには、どうすれば良いか、自分なりに「戦略」を練ったが、

「まずは、何処かのファッション雑誌に、自分の腕前を認めてもらおう」

という結論に達した。

私は、日大(日本大学)の芸術学部に進学したが、学業そっちのけで、カメラマンのアルバイトの口を探していたが、

ある時、とうとう私は、某ファッション雑誌のカメラマンのアルバイトとして雇われた。

「よし、やってやるぞ!!」

私は、遂にチャンスを掴んだと思い、とても意気込んでいた。

 

 

私が、その雑誌でカメラマンのアルバイトを始めてから、暫く経った頃、

私は、編集長に呼ばれた。

そして、私は編集長から、こんな指令を受けた。

「今から、この本屋に行って、モデルの子の写真を撮って来てくれないか?」

編集長は、私に対し、ある書店の写真を見せていた。

そこは、近くに大学が立ち並ぶ、某古本屋街の一角だという。

「こういう所で、綺麗なモデルの子の写真を撮ると、意外な取り合わせで面白いと思うんだけどな。どうだ?」

そう聞かれても、入ったばかりの「新米」の私には、選択肢など無い。

「はい、わかりました」

と、私は答えるしかなかった。

こうして、私はその雑誌の専属モデルやスタッフを引き連れ、その古本屋に向かった。

それは、小雨が降りしきる、春の日の事であった。

 

 

私達が、件の古本屋に着くと、そこには沢山の本がうず高く積まれていた。

「こういう所で、ファッション雑誌の写真を撮るというのは、確かに、なかなか面白いかもしれないな」

私は、今更ながら、編集長の着眼点に感心していた。

そして、店内を見回し、撮影の準備をしようとしていた、まさにその時、私は近くに有った、移動式の梯子を何気なく押してしまった。

すると、その梯子の方から、

「キャーッ!!」

という、物凄い悲鳴が起こった。

よく見ると、その梯子には、人が乗っていたのである。

私は、ハッとして、悲鳴がした方を見たが、梯子は本棚の角にぶつかり、停まっていた。

「すみません!!気が付かなくて…。大丈夫ですか!?」

私は、慌てて駆け寄ったが、

「ええ、大丈夫です…」

梯子に乗っていた人は、青ざめた顔をしていたが、どうやら無事のようであった。

私が、その人の事を見てみると、どうやら、私と同年代ぐらいの女の子である。

そして、このお店で働く店員のようだった。

女の子は、移動式の梯子に乗り、本の整理をしていたらしい。

私は、それに気付かず、梯子を押してしまったのであった。

 

 

「本当に、申し訳ありません…。ところで、申し訳ついでなのですが、このお店、暫く撮影に貸して頂けませんか?」

私は、その女の子に対し、厚かましくも、そんなお願いをしていた。

「え!?撮影ですか…?今、店長が外出していて、私は判断出来ないんですけど…」

女の子は、戸惑っていた。

しかし、あまり与えられた時間も無かった私は、

「そこを何とか!!お願いします!!」

などと言って、その子に無理矢理、頼み込んでしまった。

「では、本当に少しの間だけなら…」

女の子は、本当に渋々といった調子で、頷いていた。

こうして、半ば無理矢理に、その子に撮影を承諾させてしまった私は、手早く撮影の準備を進めて行った。

 

 

「何なの、この人達…?」

撮影をしている間、女の子は終始、憮然とした表情をしていた。

その子の横で、我が雑誌のモデルが、とても慣れた様子でポーズを取り、私も手早く写真を撮って行った。

本来は、そのモデルだけを撮れば良かったのだが、私はふと気になって、そのモデルと、店の女の子が一緒に写った写真も撮っていた。

プロのモデルと、古本屋に勤める、平凡な女の子の組み合わせという、それは、あまりにも対照的な、奇妙な写真だったが、その組み合わせが新鮮で、とても印象的な構図になっていた。

 

 

「それじゃあ、最後に店内の写真だけ撮らせてもらうから、ちょっとゴメンね!!」

私は、無理を言って、少しの間、女の子に店の外に出てもらっていた。

店の外は、いつの間にか雨も上がり、空には虹がかかっていたが、

街角に立つ古本屋と、その女の子は、妙に調和が取れているように見えた。

「撮影、無事に終わりました…。本当に有り難う!!」

私は、その子に礼を言った。

女の子は、仏頂面だったが、実の所、私はその子の事が、とても気になっていた。

その子はちょっと地味な恰好をしていたが、とても人を惹き付ける雰囲気が有ると、私は思っていた。

「今度、この雑誌に写真が載りますので…」

私は、遅ればせながら、雑誌の名前が入った名刺を渡した。

女の子は、とても胡散臭そうな目で、私と名刺を交互に見ていたが、

「私、こういう浮ついた業界の人って、大嫌い!!」

と言い放つと、プリプリと怒りながら、店の中に戻って行った。

 

 

こうして、私は、その女の子と最悪な出逢い方をしたが、

何故、私がその子の事が気になっていたのかといえば、その子は、私が大好きな、あの女優…オードリー・ヘップバーンに、とても良く似ていると思っていたからである。

「確かに、今は地味かもしれないけど、この子は絶対に磨けば光る素材だ!!」

私は、ファッション雑誌のカメラマンの端くれとして、自分の「眼力」には自信を持っていた。

そう、最初は地味で冴えなかった子も、磨けばとんでもなく美しい女性に化ける事が有る…。

あの『マイ・フェア・レディ』のように…。

 

<第3章・『麗しのサブリナ』>

 

 

「先日は、大変失礼致しました。ご迷惑をおかけしまして…」

後日、私は菓子折りを持って、再び、あの古本屋を訪ねていた。

あの店の女の子は、私が訪ねて行った時、私をまるで不審者でも見るような目で見ていたが、

その時は店に居た古本屋の主人は、

「いえいえ。お店の宣伝にもなりますし、大丈夫ですよ」

と言ってくれた。

お店の主人がそう言うからには、店の女の子も、渋々ながら、何も言わなかった。

「ところで、こちらのお嬢さんと、少しお話したいのですが…。構いませんか?」

私が、店の主人にお伺いを立てると、

「ええ、構いませんよ」

と、店の主人は言ってくれた。

女の子はビックリした顔をしていたが、

「君、お店は大丈夫だから…」

と、店の主人が言うものだから、女の子は、またしても渋々と頷いていた。

「有り難うございます。では、失礼します…」

と言って、私はその子を連れて、行きつけの喫茶店へと向かった。

その喫茶店は、古本屋から程近い、陽の当たる坂道の上にあった。

 

 

「先日は、色々と有り難う」

喫茶店に着いた私は、自分とその女の子の分のコーヒーを頼むと、女の子に対し、改めて頭を下げた。

「そう言えば、貴方のお名前、まだ伺ってませんでしたね…?」

私がそう言うと、麗しのサブリナ…ならぬ、麗しの女性店員は、

「私は、彩(あや)って言います」

と、彼女は初めて自分の名を名乗った。

「彩(あや)さんね、とても良い名前ですね」

私は素直にそう思っていたが、「彩(あや)」の表情は相変わらず、曇りがちであった。

「彩(あや)さんは、学生さんなの?」

私がそう聞くと、「彩(あや)」は、

「はい。東京大学に通ってます」

と、事もなげに、サラリと答えた。

「東大!?めっちゃインテリじゃねーか…」

私は内心、焦ったが、確かに「彩(あや)」は、とても理知的で、賢そうな表情をしており、それこそ異彩を放っているように見えた。

「それで…。何か私に御用件でも??」

「彩(あや)」は、探るような目で、私に問いかけて来たが、私はその問いに対し、

「それじゃあ、単刀直入に言うけど、君、雑誌のモデルをやってみないか?」

と、直球で切り出していた。

「モデル!?私がですか!?」

「彩(あや)」は、心底ビックリした顔をしていた。

「そうだよ。この間の撮影の時、君はあのモデルに負けないぐらい、とても凄いオーラが有った。僕は、君なら絶対に良いモデルになると、確信してるんだよ」

私は、自分の素直な気持ちを伝えていた。

私からの思わぬ申し出に、「彩(あや)」は暫し呆然としていた。

 

 

「私、勉強しかして来なかったし…。それに、そんな華やかな世界なんて、私の居る所じゃないと思う…」

「彩(あや)」は、呟くように言っていたが、私は、

「そんな事は無い!君はまだ、自分の可能性に気付いてないだけだよ」

と、思わず力説していた。

そして、私は「殺し文句」として、こんな事を言った。

「君さえオッケーなら、今度パリに行って、君の写真を撮りたいと思うんだけど。どうかな?」

私がそのような提案をすると、「彩(あや)」の表情が輝いた。

「パリ!?それなら、私、行ってみたいかも…」

「彩(あや)」が言う所によると、彼女は建築に興味が有り、パリの美しい街並みは、一度、見てみたいと思っていたという。

「それに、私、行く行くは外交官になりたいっていう夢が有るの…」

その時、「彩(あや)」はそんな事を言っていたが、これは後の彼女の運命に関わる、重要な一言だった。

だが、その時に私は、その言葉には殆んど注意を払わず、完全に聞き流していた。

「君の学業には支障が出ないようにするから…。一度、挑戦してみないか?」

私は、そんな事を言ったが、実を言うと、もう編集長に掛け合い、「彩(あや)」の写真を見せ、

「今までのモデルには無い魅力を放つ、この子をパリに連れて行き、今度の雑誌に特集に使いたい」

という企画をアピールし、既にその企画を通してしまっていたのである。

私は、そんな事はおくびにも出さなかったが、私の熱意(?)に押されたのか、「彩(あや)」も最後はとうとう、首を縦に振っていた。

こうして、私達は憧れのパリの都へと向かう事となった。

 

<第4章・『パリの恋人』>

 

 

こうして、私は「彩(あや)」を半ば強引に口説き落とし、彼女を連れてパリへと向かった。

パリは、昔も今も、世界中の人達を惹き付けてやまない、「花の都」である。

これまで勉強一筋だったと語る、インテリ女学生の「彩(あや)」も、パリに着くと、全てから解放されたような、とても生き生きとした表情をしていた。

「私、パリに来るのが、子供の頃からの夢だったの…」

「彩(あや)」はそんな事を言っていたが、出逢った時とは別人のように明るい表情になった「彩(あや)」を見て、思わず私の顔も綻んだ。

 

 

 

私達は、パリの街のあちらこちらで、沢山の写真を撮って行った。

「君の名前にピッタリの、色彩も鮮やかな写真を撮ろう!!」

私はそう言って、「彩(あや)」に色とりどりの風船を持たせた写真を撮ったりしたが、

パリに居る間に、ズブの素人だった筈の「彩(あや)」は、どんどん自信を付けているように見えた。

「彩(あや)」は、元々、とても可愛い顔立ちをしている女性だったが、内面から湧き出る自信が、彼女をより一層、光り輝かせていた。

 

 

私達がパリに居る間に撮った、極めつけの写真といえば、

ルーブル美術館の「サモトラケのニケ」の前で、赤いドレスを着た「彩(あや)」を写した1枚である。

「彩(あや)」は、

「さあ、私を撮って!!」

と言わんばかりの、自信に満ちた表情をしていたが、古本屋に勤めるインテリ女学生の「彩(あや)」は、すっかり、いっぱしのモデルへと「変身」していた。

「やはり、俺の目に狂いは無かった…」

私は、自分の「眼力」に、我ながら感心してしまった。

未だに、この時の撮影の事は夢に見るが、それだけ強烈に印象に残った出来事であった。

そして、私と「彩(あや)」は、カメラマンとモデルという間柄以上に、すっかり親しくなっていた。

私達は、お互いがお互いを信頼する、大切なパートナーになっていたのである。

もっと言えば、パリに居る間、私達は「恋人」同士になっていた。

 

<第5章・『ティファニーで朝食を』>

 

 

私がパリで撮った「彩(あや)」の写真は、早速、編集長の元へと送られたが、

編集長は、その写真を見て、

「これは、新たなスターの誕生だ!!」

と言って、とても興奮していた。

「美人東大生、パリの街を行く」

そんなタイトルで、雑誌で大特集が組まれると、忽ち、雑誌が売り切れるほどの大反響になり、「彩(あや)」は一夜にして、一躍、超人気モデルの仲間入りを果たしてしまった。

彼女が素晴らしかったのは、容姿が美しいというだけではなく、知的でエレガントな魅力が有ったという事であり、急に有名になったからと言って、彼女は決して自分を見失う事は無かった。

派手なメイクをしたりする事もなく、せいぜい頬紅の薄化粧をするぐらいだったのだが、それでも「彩(あや)」の美しさを引き立たせるには充分であった。

 

 

「私、これからどうしようかと思って…」

ある時、朝食の席で、「彩(あや)」は私に対し、ポツリと呟いていた。

「彩(あや)」には、モデルとしてのオファーが殺到し、彼女は学業の傍ら、モデルとしての仕事をこなしていた。

だが、「彩(あや)」はあくまでも、

「学生の本分は勉強」

と思っており、これから自分はどんな道を歩んで行けば良いのか、とても悩んでいるように見えた。

私も、半ば強引に彼女をこの世界に引っ張り込んでしまった者として、責任を感じていた。

「彩(あや)、今度、2人で、海を見に行こう」

私は、気分転換するため、休暇を取り、彼女と旅行に行く事にした。

だが、その旅行先で、「彩(あや)」の運命は大きく変わる事となった。

 

<第6章・『モンテカルロへ行こう』>

 

 

 

私と「彩(あや)」が向かったのは、モンテカルロという所であった。

モンテカルロといえば、そう、かつてグレース・ケリーが嫁いだ所として知られる、あのモナコ公国に有った。

私達は、モンテカルロの青い海を見たり、砂浜で遊んだりと、暫くの間、楽しく過ごしていた。

だが、人生は何が起こるか、わからないものである。

このモンテカルロで、「彩(あや)」の美貌が、さる人物の目に留まった。

「歴史は繰り返す」

ではないが、それはモナコ公国の王室の関係者だったのである。

そう、嘘みたいな話だが、あのグレース・ケリーと同じ出来事が、「彩(あや)」に起こったのだった。

 

 

「彩(あや)」は、モデルとして知られ、ちょっとした有名人になっていたが、

ある時、私達が大使館のパーティーに出席したところ、何と、モナコ公国の王子が、「彩(あや)」に一目惚れしてしまったという。

そこからは押しの一手で、「彩(あや)」は、王子からプロポーズを受けるに至った。

勿論、当初は「彩(あや)」も断るつもりだったようだが、王子のこんな「殺し文句」が、彼女の心を動かした。

「貴方に、この国の親善大使としての役割を果たして欲しいのです…」

「彩(あや)」を、お姫様として迎えるだけではなく、友好親善大使の役割を任せたいというのである。

そう、「彩(あや)」には「外交官になりたい」という夢が有ったのである。

今まさに、その夢が叶おうとしている…。

そして、熟慮を重ねた末、とうとう「彩(あや)」はプロポーズを承諾してしまった。

私と言えば、事の成り行きを、ただ呆然と眺めるだけであった。

 

<終章・『ローマの休日』>

 

 

 

「現代のシンデレラ、誕生!!」

「彩(あや)」が、モナコ公国の王子に見初められ、モナコ公国に嫁いで行くという大ニュースは、一大センセーションとなって、世の中を騒がせた。

もしかしたら、当の本人が一番戸惑っていたかもしれないが、運命とは全く不思議なものである。

そして、「彩(あや)」は記者会見を開き、モナコ公国の王子との婚約発表を行なったが、記者会見の会場には、多くの記者が集まっていた。

そして、その中には私も含まれていたが、

「これで、もう彩(あや)には二度と逢えないのだな…」

という事が、私にはわかっていた。

私は、記者会見の場に居ながら、

「まるで、あの『ローマの休日』のラストシーンみたいだな…」

と、思っていた。

 

 

 

やがて、記者会見も終盤になったが、「彩(あや)」のたっての希望により、

「彩(あや)」は、集まっていた記者の1人1人と、握手を交わす事となった。

そして、私と「彩(あや)」が握手を交わす時がやって来たが、私は、

「この度は、おめでとうございます…」

と言って、彼女にプレゼントを渡した。

それは、ルーブル宮殿で撮った、あの赤いドレス「彩(あや)」の写真であった。

その写真と共に、私は「さよなら」と書いた手紙を付けていた。

 

 

 

「どうも有り難う…」

公(おおやけ)の場だったので、「彩(あや)」は、それ以上は何も言わなかった。

だが、彼女の目は潤んでいた。

私達は、万感の思いを込めて握手を交わしたが、それが私と「彩(あや)」との別れの握手になった。

こうして、私の恋は終わりを告げたのであった。

 

 

私は今、忘れ難き女(ひと)、「彩(あや)」の思い出について書いているが、

青い波の打ち寄せる、誰も居ない砂浜に行くと、彼女の事ばかりを思い出してしまう。

「世界中の誰より、幸せになってくれ…」

今の私が、「彩(あや)」について思うのは、その事だけだが、

彼女と過ごした日々は、未だに「熱い胸騒ぎ」となって、私の心に残っている。

 

 

『彩 ~Aja~』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ

 

或る日雨の間に間に虹を見つけて
そぞろ歩き始めた恋の街角

いつか君と訪れた
陽の当たる坂道は
アモーレ 心せつなく
今日も風がそよ吹くだけ


ひとり季節はずれの海を見つめて
時の過ぎゆくままに募る想い出

青い波の打ち寄せる
誰もいない砂浜で
夕陽浴びてカモメが
恋の終わりを告げる Ah, ah…

夢の中へ僕を連れてって
綺麗な花咲く場所(ところ)へ
黃昏も I'm alright
路傍の影は Blue


夢の中でだけどそばにいて
今でも忘れ得ぬ恋なら
憧れの Love is alright
もう二度と逢えないと
知りながら涙

君がやがて誰かと戀に落ちたら
世界中の誰より幸福(しあわせ)になってくれ

一番大事な女性(ひと)へ
「さよなら」をプレゼント
アモーレ 涙で滲む
星を指輪に変えて Ah, ah…

ありのままの僕を責めないて
サエない駄目な奴だけど
この頃は I'm okay
慕情は何故に Cruel

 

離れ離れでも懐かしくて
頬紅香る薄化粧
あの頃は Love is ole
気まぐれな風のように
春の陽は無邪気

夢の中へ僕を連れてって
明日へ羽ばたく旅へと
これからは I'm alright
希望の空は Blue

 

夢の中でだけどそばにいて
今でも逢いたくなるから
面影は Love is alright
甦るロマンスは
熱い胸騒ぎ

 

もう二度と逢えぬなら
春なのに涙