去年のベストライブは、静岡のFESTIVAL de FRUE 2019、2日目の19時から始まった。


20年ほど前、tom zéのこのCDで初めて聞いた時の衝撃と書くと、大げさだが、新しい世界の広がりへの期待感と、幸福感があった。


そういう体験はそうそうない。それが起こるのは謂わゆる名盤に拠るとは限らない。例えばJoan GilbertStan Getzのライブ盤「Getz au go go」、Tom W aitsの「土曜の夜」この2つはジャケットを知らなかった。カセットテープである。


田舎の中坊には情報もなかった。前者はヨーロッパ、フランス的な洗練(こういう言葉しか思いつかない)だったし後者はジャズだった。どちらもワクワクさせるものがあった。


tom zéの「FABRICATION DEFECT」は特別だ。アナログで買い直した。デヴィッド・バーンが自身の運営レーベルLUAKA BOPから、1998年にリリース。寄せ集められた録音は多分60年代、70年代。アナログ再発は2016





エバーグリーン、だと思う。この楽想をある時代の中に位置付けることは、それを理解したことにならない。セロニアスモンクにも感じるどこまでもポストなモダン。そういえばモンクの「Brilliant Corners」も新しかった。


ライブは字幕が出た。ブラジルで1964年から始まった軍事政権を批判するが、決して一途にならず、諧謔や、エロや、退屈がまぶされている。


別に、まぶされてるわけでもないか。一途とは、誰かが誰かを真似た言葉だったりする。腹の底から言葉を集めればこうなる。ただ今を歌っている。

トロピカリアの伝説ではなく現役歌手。アルバムも出続けている。





食事を大事にし、毎朝ヨガや太極拳を取り入れたオリエンタル体操を、晩には、妻と本を音読する。川端康成や、村上春樹、三島由紀夫も本棚にある。音楽は完全な没入とリラックスを指す。そんなひとらしい。腹は底までいたって健康だ。83歳。


tom zéFABRICATION DEFECT1998