ネットの投稿を見ていると、ASD(知的障害のない自閉症)の人は、ユングの性格類型が N型の人が多い。これは一見、不可解に思える事で、そもそも両者はもともと観点の異なる概念で、かつ、N型は人口分布としては少数派なので、ASD になる人と N型の人では、いったい何が似ているのかと考えざるを得ない。

 

まず、ASD の特性の中で、明らかに N型とは相容れないものをあげてみよう。

〇 全体よりも細部に注意が向き、部屋の様子や人の外見が少し変わっただけでも、すぐ気づく。

… ASD の人によく見られる特性だが、N型はこれの真逆の場合が多い。基本的に N型は、表面に現れる結果より見えない原因の世界に関心が向かう。

〇 同じやり方を繰り返し用いる事を好み、急な予定の変更や方針の変更を嫌う。

… これも ASD の特性だが、これに対して N型は、従来とは異なる視点に立ち、新しいやり方を見つけ出したり、新しいものを作り出したりする事にやりがいを感じる。

 

際立っているのはこの二点だろう。それ以外の特性については、ASD と N型の間には特に関係は無いように見える。ところで、上に記した ASD の特性と反対方向にあるのが、ADHD(注意欠如多動症)である。ADHD と N型は、もともと共通点があるのだが、そもそも反対方向の性向である ASD と ADHD は合併する事が多いのが、問題の本質にある。

ところで、性格類型論にハマり易いのは、圧倒的にN型で内向型の人が多いらしい。S型で外向型は、そもそも興味を示さないのだ。それから、ネットにわざわざ自分の診断結果を晒したがる人は、ADHD の傾向を多かれ少なかれ持っている、と言うのはだいたい想像がつく。

つまり、ASD と ADHD の両方の傾向を持っている N型の人が盛んにネットに投稿するので、ネットだけを見ていると、ASD には N型の人が多いように見えてしまう、というのが本当の事のようだ。

 

<回想>

今から50年近く前、自分が大学3~4年の時、精神医学と精神分析の本を読み漁った事があった。その時、ユングの性格類型論を知ったが、あまり興味は湧かなかった。人間の性格は後天的条件でいくらでも変わるものだと固く信じていたからだ。それが、世の中で仕事をするようになって、何年も経つうちにようやく、人間の性格の根本はどうも、生まれた時から変わらないみたいだ、と気づくようになった。そのころ、ユングの理論を職業適性に応用した MBTI の本が出ていて、非常に刺激を受けた事を覚えている。

とは言え、ユングが性格類型論(タイプ論)を発表したのは、今から 100年も昔の事で、自分が MBTI の本を読んだのも 40年近く前の事なので、ユングの理論も MBTI も、とっくに世の中では廃れてしまっているだろうとばかり思っていたら、意外な事にそうではなかった。