好きな詩人の一人


日々の生活から

産まれる痛みのうた


詩は透明な叫びであり、

声である


私からの抽象であり、

あなたへの具象


一つ 紹介


私の前にある鍋とお釜と燃える火と


それはながい間
私たち 女のまえに
いつも置かれてあつたもの、


自分の力にかなう
ほどよい大きさの鍋や

お米がぷつぷつとふくらんで
光り出すに都合のいい釜や

劫初からうけつがれた

火のほてりの前には

母や、祖母や、

またその母たちが

いつも居た。


その人たちは
どれほどの愛や

誠実の分量を

これらの器物に

そそぎ入れたことだろう、

ある時は

それが赤いにんじんだつたり
くろい昆布だつたり
たたきつぶされた魚だつたり


台所では
いつも正確に朝昼晩への用意がなされ

用意のまえにはいつも幾たりかの
あたたかい膝や手が並んでいた。


ああその並ぶべき

いくたりかの人がなくて

どうして女がいそいそと炊事など
繰り返せたろう?

それはたゆみないいつくしみ
無意識なまでに日常化した奉仕の姿。


炊事が奇しくも分けられた
女の役目であつたのは
不幸なこととは思われない、

そのために知識や、

世間での地位が
たちおくれたとしても
おそくはない

私たちの前にあるものは
鍋とお釜と、燃える火と


それらなつかしい器物の前で
お芋や、肉を料理するように
深い思いをこめて

政治や経済や文学も勉強しよう、

それはおごりや栄達のためでなく

全部が
人間のために

供せられるように



全部が愛情の対象あつて励むように。






なにかを捧げることは

なにかを慈しむこと


失ったと感じても

なにかを捨てても


包丁は振われる


誰かのため 




もしそれが犠牲なら

もしそれが不平等なら


なにもしない

なにもできない


それが恨みで

それが苦しみなら


私とあなたは

切られる


切った 切られた

切られたから 切る 


受けた傷 から逃れたい

私は また傷を振るう


失いたくないもの

大事なもの

欲しかったもの


色々な切傷


例え、自由がなくても

自由を感じられなくても


私の役は 私でありたい

あなたがあなたの役を演じられるように


文学を 経済を 政治を


あらゆる人が

長く積み重ねてきた学問を

勉強しよう


あらゆる私を捧げて 







あなたがすることの

ほとんどは


無意味である


それでもしなくてはならない


そうしたことをするのは、


世界を変えるためでない


世界によって

自分が変えられないよう

にするためである


ガンジーの言葉


自分がなにかをしても

社会は変わらない 


もしそれで

一瞬で変わるなら

そっちの方が怖い


だけど、何かを考え、

意見を出すことで


「もうこれで仕方がない」

「なにも出来ない」

「意味も価値もない」


と思いこむような

諦めのスパイラルを

避けることが出来る