一般紙がレクチャーする羽生結弦の基本 ~ 朝日1面ジャック | ほりきりのブログ

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鉄道の旅とスポーツが好きです

 2月11日の朝日新聞朝刊一面です。



 隣のスーパーの開店時間に飛び込んでスポーツ紙を買いあさってきたくせに、1日の終わりに紹介するのは、購読している一般紙の話だ。
 なかなかすごい1面だなと改めて思った。
 オリンピックの期間中だからトップにくるのは珍しいことではない。金メダルとかなら当然かな。
 でも羽生は4位だったんで。
 写真は大きくはないけど、美しい。ほらやっぱり後ろのフェンスと羽生の衣装の色がマッチしている。会場の装飾色彩まで羽生の衣装の一環であるかのようだわ。


 そして、確かこの種目は、日本人選手が銀銅だったはずだよね。下に小さく写真だけあるわ。
 もちろんスポーツ欄はメダリストたちの写真付きの記事がメインだよ。羽生の写真は4Aの分解写真。これ各紙でみんな載せるね。何よりも大切なことなんだろう。でもアミノバイタルの広告が一番大きい…


 社会面には鍵山親子の話。(どうも朝日の一部にはこちらを密着でもして押す勢があるようで、わりと頻繁に大きく取り上げているようだ。読まないけど)でも1面は羽生。


 中味を丸々掲載させてもらいます。もう昨日の紙面だからいいよね。
 私がスポニチに乗っかって紹介したばかりの羽生のインタビューの内容も盛り込んで男子フリーをまとめ、私たちはもうみんな承知している羽生とアクセルと都築先生にもまつわるエピソードが紹介されている。
 私たちには今更なことでも、一般の人は知らない。それを朝刊の1面に載せれば全国の朝日の読者が読む。羽生のファンしか知らない面を多くの一般人に知ってもらうことになる。
 なかなかに意義深い記事であるなと思う。ではーー


 4回転半 一番近づけた

 演技を終えた羽生結弦は両手を上げたポーズのまま、6秒間宙を見上げた。
 「9歳の時に滑っていたプログラムの最後と同じなんです」
 フィギュアスケート男子フリーの冒頭で、前人未踏のクワッドアクセル(4回転半)に挑んだ。
 「あの時の自分と重ね合わせながら」
 回転が足りず転倒したが、国際スケート連盟(ISU)公認大会で初めて4回転半を跳んだと認定された。「今までの中で一番、近かった」得点を待つキス・アンド・クライでは、すがすがしい表情で深々と礼をした。
 平昌五輪で連覇した直後、次の目標を「4回転アクセル」と宣言した。理由をこう続けた、「恩師である都築章一郎先生が『アクセルは王様のジャンプ』と言っていたので」
 9歳のころ、少年は唯一、前を向いて跳ぶ優雅な技の「王様」というフレーズにワクワクした。跳べていたのは、まだ1回転半だったが、都築さんは「世界に羽ばたくんだよ」と何度も言ってくれた。
 2019年に、羽生はこんな話をした。「ずっと9歳の自分と戦っている」。何時間滑っても飽き足らない。どんどん新しい技に挑んでいた。
 「その時の自分に『お前、まだまだだろ』と言われている。心からスケートが好きで、自信があることに素直にいられた小さいころの自分と、今の自分が融合したら、理想の羽生結弦と言えます」
 勝利を義務づけられた。この2年はコロナ禍で拠点のカナダに渡れず、孤独に4回転半に向き合った。何千回も氷にたたきつけられ、「疲れたな、もうやめようって思った」。
 そんなとき、9歳の時のプログラムを深夜のリンクで一人、舞った。すると、感じることができた。
 「やっぱり、スケート好きだな」
 3連覇よりも大きな価値があると信じ、「自分の限界に挑み続けたい」と4回転半にトライした。9歳の自分に、27歳の自分が負けるわけにはいかなかった。
 3度目の五輪は「いっぱいいっぱいでした」。「王様」を決められなかった。メダルにも届かなかった。
 「報われない努力だったかもしれないけど、うまくいかなかったことしかないけど。でも、一生懸命、これ以上ないくらい、頑張りました。自分のプライドを詰め込んだオリンピックだったと思います」
 9歳の自分に誇れる羽生結弦が、そこにはいた。(岩佐友)



 ああさすがプロだなあ。簡潔でわかりやすいなあ。これならみんな羽生のことわかってくれるかな。

 2連覇した金メダリストがオリンピックに臨むと、周囲は当たり前のように今度は3連覇だとはやす。できると信じてくれているから厄介だ。だから今回表彰台にも届かなかった。なんだ羽生くんダメダメじゃんと思った人もいるのかな。
 だけど今回大会が近づき、進むにつれて、3連覇そのものよりもクワドアクセルの方に注目がシフトしていった。なんかものすごい必殺技に羽生くんが挑むらしい。
 注目の度合いは異常だった。テレビでワイドショー内で当たりまえのように練習風景が生中継される。そこに映しだされるのは華麗な衣装ではなく黒い練習着に身を包んだ(これが発見されたのもヤバいよね)闘志と静謐が同居するこの世で一番美しいいきもの。生の映像ほど威力があるものはない。羽生の挑戦の真実を多くの人たちはおぼろげに理解してくれていたと思う。
 それを裏付ける「羽生結弦の基本」をわかりやすく一般紙の1面(!)で紹介してくれたことはほんとうにすごいなあと思う。


 さらに、その1面の一番下にある、朝日の名物でもある「天声人語」
 なんとこっちも羽生とアクセルの話だった。
 つまり2月11日は羽生結弦が朝日の1面をジャックしていた。
 こちらはアクセルジャンプにまつわる話。私も知らなかった具体的な数字の物語。

 最後の一文はまあ筆者がスケートのことを知らないのだろうから読み流してくれ。ではーー




天声人語

 明治維新からまもなく、北欧ノルウェーにアクセル・パウルゼンという若者がいた。1882年、スケートの国際大会に臨み、中空で身を回転させる新技を決める。ジャンプの大技「アクセル」は彼の名にちなむ。
 多くのスケーターが挑むが、回転数をなかなか増やせない、パウルゼンの1回転半が、2回転半まで伸びたのは66年後、3回転半に達するには実に96年を要した。6種類あるジャンプの中で、他のどれよりも難しく、どれよりも得点が高い。
 アクセルの誕生から今年で140年。羽生結弦選手が挑戦したのはクワッドアクセル(4回転半)である。世界のファンの視線が氷上に注がれる中、果敢に挑んだが、残念ながら氷の神様はほほえまなかった。
 陸上競技にたとえるなら、走り幅跳びをしながら同時に背面跳びも決めるような技だと専門家が解説している。まさに異次元の難度なのだろう。「(4回転半を)決めきりたい」という宣言通り、五輪の大舞台で前人未踏の技に挑んだ。その果敢な姿勢は世界中のアスリートの胸を熱くしたに違いない。
 北京で取材中の同僚によれば、きのうの演技は今大会屈指の注目度だった。各国の記者が詰めかけた。羽生選手がリンクに姿を現すと場内は静まり返り、スケート靴が氷を削る「サーッ」という音が場内に響いたという。
 50年後あるいは100年後の五輪会場を夢想した。「5回転ハニュー」「6回転ハニュー」。羽生選手の名を冠したまだ見ぬ超絶技が銀盤の上で花開いた。



 サルコウさんは名字なのにアクセルさんは名前なのね。(今回どちらにも苦労させられたわね)
 66年前の2回転半てバトンおじいちゃんだ。
 アクセルの長い歴史。そこに名前を残そうという、とてつもないことを羽生が挑んでいたのだということが、広くみんなに知れてほしいな。金メダルじゃなくてアクセルに全振りした羽生のことをわかってほしいな。
 
 
 羽生のクワドアクセル挑戦という一大プロジェクトは、世界を(カナダのクリケットコーチ陣はもちろん、ロシアのミーシン先生まで)異競技を(主に体操方面)超えて巻き込んでいった。
 この超大技をオリンピックで挑むということで、ファンのみならず一般国民にも注目された。
 みんなが夢中だった。羽生の夢にのっかって、みんなが同じ方向を見ていた。これって、現象だよね。
 

 まだ会期はなかば。11日もハープパイプで平野がついに金メダル。次々にヒーローは生まれて注目されるだろう。
 それでも、今回メダルがとれなくても、北京オリンピックのど真ん中にいるのは、やっぱり羽生結弦なんだろうな。

 エキシビションは出るのでしょうか?足は大丈夫ですか?ジャンプは跳ばなくても、羽生が氷に立てばそこは劇場になる。

 オリンピックの最後に、もう一度姿を見せてくれると全世界が狂喜すると思います。