工具を握る指先に、妙な緊張が走る。あの独特のヒリヒリ感。長年自転車をいじっている人間なら、誰しも一度は味わったことがあるんじゃない?
今回の相手は、旧知の大先輩が持ち込んだ一台——Pashley製のAPB Moulton。
イギリス生まれの折りたたみ小径車で、ブロンプトンと同じくFAG製のカートリッジBBを採用している。特徴は、あの悪名高い樹脂(プラスチック)製のカップ。外側に6つのノッチが切ってあり、見た目はカンパニョーロの古いBBと瓜二つ。だからPark Tool BBT-4がぴったり嵌まる。
……嵌まるまではイイ。余りにも久しぶり過ぎてBBT-4持ってるの忘れていたと云うねワシ。工具箱の底のほうを掻き分けて探したよ(笑)。
現場は晴れた小春日和と云うにはちと暑い昼下がりの湘南地方である。Moultonをスタンドに固定し、チェーンを外し、クランクを抜く。
写真を見ればわかる。…ウチの大先輩はモールトンを普段使いする。丁寧にね。消耗品等、壊れたら治して大切に、永く使う、乗ると云うタイプのお人である。モールトンは申し訳無いが自転車屋なら何処でも弄れるって訳にはいかないんだよ。ワシも流石に知り合いじゃ無けりゃあ丁重にお断り申し上げる車種である。モールトンなんか扱って無いし(笑)。
まぁいい。さて、BBT-4を両手でしっかりホールドし、慎重に、徐々に力を入れてみる。足元にはチェーンがだらりと落ち、MinouraのスタンドがMoultonの小さな車輪を支えている。背景に散らばる工具群——モンキー、ヘキサ、ドライバー等々が、この作業の「本気度」を物語っている。のか?(笑)
FAGのこのBBは、金属製のカートリッジ本体は意外と頑丈なのに、外側のマウントリングだけがプラスチックなんだよ。イギリス製の自転車ってブロンプトンもそうなんだけど、いちいちプラスティック製部品がお好きの様で(FAGはドイツ製だけどね)プラパーツ天国なんだ。で…
• 長期間放置すると樹脂がフレームのネジ山に「食いつき」、固着する
• ノッチが薄く、工具が滑りやすい
• 回せないと割れて残骸がシェル内に散乱し、後始末が地獄
ブロンプトンコミュニティでは「FAGのプラスチックBBは触るな」
実践的な対処法(これからトライする人へ)
1. 事前準備が命 数日前から浸透油(PB BlasterやKroilなど)をネジ山周りにたっぷり染み込ませる。可能なら毎日少しずつ。
2. 工具の嵌め方 BBT-4を奥までしっかり押し込み、工具本体をフレームに軽く押し付けるようにして滑りを防ぐ。写真のように両手でグリップを握るのがコツ。
3. 回転方向 ドライブ側・ノンドライブ側ともに、**前輪方向(緩めるときは逆)**に回す。ISO規格の逆ネジではないが、FAGは標準右ネジの場合が多い。
4. ダメなら最終手段
• 熱を加える(ヒートガンでBBシェル側を温める)
• プラスチック部分を慎重にカット(ホットナイフやハックソー)して除去
• 金属本体だけを叩き出す 交換は金属カップの互換BB(Shimano UNシリーズや高品質カートリッジ)に変える人がほとんど。プラスチックより遥かに安心。
整備の醍醐味は「ヒリヒリ」にある⁉︎
このMoultonは、ただの通勤ツールじゃない。…思いっきり普段使いされてるけどねw
独特のサスペンションと折りたたみ機構、英国らしいクラシカルな佇まい。
BBT-4を握り、プラスチックカップと睨み合うこの瞬間。
汗がにじみ、工具が少し滑りそうになる緊張感。
外れた瞬間の「嗚呼…」という安堵と達成感。
これが、自転車いじりの本当の味だと思う。
大先輩の愛車が、再び軽やかに走り出す日が来るまで、





















