(下記記事は言論プラットフォーム「アゴラ」に掲載されています)

 

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総選挙はイデオロギー対立だったのか

 与党の勝利で終わった総選挙。民進党が分裂状態に陥り、希望の党や立憲民主党が誕生したことを踏まえると、やはり日本では二大政党制は難しく、穏健な多党制が落ち着くべき位置なのだろうかと思う選挙であった。それはそうと、総選挙を経て一つ検証してみたいことがある。それは、今回の選挙において「保守や革新、リベラルといったイデオロギーが、有権者の投票行動に影響を与えたかどうか」という点である。

 

 小池都知事は改革保守を標榜し希望の党を立ち上げ、民進党保守派の代表格だった前原氏は革新系と決別し、排除された側の立憲民主党はリベラルの結集を訴えた。ここで保守・革新・リベラルといった用語の定義には触れないが、いずれにしても彼らは、「イデオロギー」を目印にして政党を分別・行動していることは紛れもない事実である。しかし、当の有権者はどこまでイデオロギーを目印にしているのであろうか。それは果たして有権者の投票行動に影響を与えたのであろうか。

 

一億総中道化する日本

イデオロギーについては竹中佳彦氏による興味深い研究がある。竹中氏によると、日本の有権者は20年前と比べ確実に中道化しているという。以下のグラフは、有権者の各政党のイデオロギー位置づけ結果を1983年と2013年で比較したものである。(竹中佳彦「保革イデオロギーの影響力低下と年齢」選挙研究30巻2号 2014年)

 

(グラフ1)

 

 

(グラフ2)

 

グラフを見ていただければ一目瞭然。1983年では、各世代ともに自民党が保守、共産党が革新の両端を位置付けていたが、2013年となると総じて中道化しており、20~40歳代においてはその差はごく僅かとなっている。

 

 

維新を共産より革新と理解する有権者

 最も面白いのが、維新の党を共産党よりも「革新」と見ている有権者が、20~40歳代に多いという結果だ。しかも、20歳代にいたっては公明党を自民党よりも「保守」と判断している。前者は、既得権益を打破しようとする維新のイメージを「革新」に位置づけたのであろうし、後者は、公明党の穏健なイメージを「保守」と位置づけたのであろう。ただいずれにしても、これらが示すのは、40歳以下の世代では従来の保守・革新というラベルがほとんど機能していないということだ。

 

 安保闘争や東西冷戦を目の当たりにしてきた高齢層にとってみれば、政党間のイデオロギーは明確なラベルとして機能してきたし、時代がそれを必要としてきた。しかしながら、東西冷戦が終結し、55年体制が崩壊、新党ブームが生まれた1990年代前半頃から、有権者にとってイデオロギー対立は重要な指標でなくなった。戦後長年対立してきた自民党と社会党が連立内閣を成立させたことも、それを象徴している。

 

 

今回の総選挙はどうだったのか

 今回の与党の大勝は、イデオロギー如何ではなく「ゴタゴタしている野党よりも、与党の方がマシ」という野党への負イメージが大きく作用したことが正直なところであろう。イデオロギーよりも「イメージや雰囲気」が重視されている傾向は今に始まったことではなく、小泉チルドレンや小沢チルドレンが誕生したようにこの20年間政界で繰り返されてきたことである。

 

もちろん、保守や革新、リベラルといったようなイデオロギーラベルは、投票率の高い高齢層を中心に依然重要な意味を持つ。しかし、これから10年・20年経過すればほとんどの世代でイデオロギーによる政党位置づけの意味が無くなる時代がやって来る。イデオロギーに代わる政党ラベル、有権者の政党を認識する指標は何になるのだろうか。ようやく、「政策」の中身、政治の「実績」が問われる時代がやってくるのか。それとも、移ろいやすい「イメージや雰囲気」が支配する時代に一層なるのか。前者であることを望みたいが、現実はそう甘くは無いであろう。

 

 

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