雨が降りそうです。



パティオから見上げる空も、
あと何回だけになるのでしょう。






時々家事をしながら考えます。



全ての荷物を出し終えて、
この住まいを一番最後に出て行く時には、
どこの景色を最後目にして去るのでしょう…


と。






そう思うと胸が締め付けられるような、
そんな気持ちになったりもします。



でも人間とは身勝手なもので、
出来上がっていく新居を見たならば、
ワクワクドキドキして胸が膨らみます。






実は私は…


舌がんの告知を受けたショックもあり、
無事に退院できて家に戻れたあと。



ホッとしたし、
やっぱり我が家はいいなと思った反面で。



長い間がんがわかるまで、
痛みと闘った挙げ句の果てに、
がんの告知を受けたということへの、
強いショックから、
なかなか抜け出せずにもいました。







自分の過去を受け入れられず、
なんとも言えないほどの哀しみ。



それを言葉にできないもどかしさ。



でもこれを誰かに分かってもらおうとも
思いませんでした。



わからないからです。



ただ悶々として過ごしていましたが、
もがきながらも「生きている素晴らしさ」を、
一生懸命になって探していました。



この家にいるとあの時の自分の辛さが、
私を時々襲い昼間一人で落ち込んで、
早くがんを見つけられなかったことに悔やみ…



特に数え切れないほど涙を流した、
ベッドルームにいると、
怖くて仕方がなかった。







住まいがトラウマみたいに
なっていたのかな(笑)



もちろんこの家には罪はないし、
昼間は一人で落ち込んでいましたが…


愛犬みき・ちかちゃん
(当時まだゆきちゃんは
この世に生を受けていない)
もいるし。



学校から戻って来る子どもたちもいる。



もちろん主人も仕事から戻ってくる。



でも昼間はリハビリを懸命にする以外は、
家事をしていても涙を止めることが、
出来なかったのです。



それを主人に話したら…





「昼間は一人なんだから
神楽坂とかいろんなところにぶらっと
ひとりランチもいいんじゃない」

と言われてそれもそうかなと。



そして一人であちこち行きながらも、
生きていてよかったと思えるように…


医師から助けていただいた命を、
大切にしよう!と、
気持ちを他にも向け始めていき…

そのうちに仕事復帰も果たすことができ、
前に向くように踏ん張っていた意識も、
それが当たり前のこととなっていた。


「生きる」ための心の克服に向けて、
何とか先に灯りが見えてきたようで。


ホッとできるようになったのも束の間です。




次にはさらなる大きな課題が。






世の中がコロナ禍に陥ったー。



この住まいの中だけで過ごす連日。



その時に家の改造をすることにして、
家族で気分転換をしよう!
とテレビを大型サブスク対応にしたりと、
電化製品を買い替えましたね。



家具の配置を思い切り替えて、
もちろん買い足したりもしました。



ダイニングもリビングも寝室も。



そして収納棚やバルコニーのウッドデッキ、
屋根裏部屋にも棚を作っていただき、
使い勝手も良くなり、
整理整頓もしやすくして。



快適な我が家へと再度生まれ変わり。



受注生産でお願いしていて、
まだ届いていなかった最後の家具が、
届いた直後に出た今回の話。



私のトラウマからも数々の後悔からも、
やっと克服できて。

闇からも脱した矢先でした。



そんな私を支えてきた家族は家族で、
さまざまな思いも堪えたりと、
私の知らない時間を過ごした、
そんな空間でもあったでしょう。



家には家族の日々の積み重ねや、
その歴史があります。



私も一時はトラウマも抱えたりしましたが、
それよりも多くの笑顔を受け止めてくれた、
この住まいに心から感謝しています。



寂しい気持ちはあるけれど、
さらに前を向いて行くために、
心を切り替えつつあります。


しかし…


実は家族の誰よりもこの家を一番愛していて、
とても哀しい思いでいるのは、
主人かも知れないと今朝改めて思いました。



仕事に出掛ける主人に、

「じゃあ行ってらっしゃい」

と言った私に…



「行ってきます」と言うのかと思ったら、
主人はこう言いました。





「昨日も焼き鳥を
バルコニーで付き合ってくれて
ありがとな」

「じゃあ行って来るぞ」