ペロシ訪台の可能性が迫る中、なぜ米国は「地球上で最も危険な場所」で中国を挑発するのか?
ワシントンは、2つの核保有国の間に紛争を引き起こすという不必要なリスクを負っている

2022年7月30日 


いま東アジアでは、米国と中国という二大核保有国が鋭く対立している。

 

米国が北京封じ込めを画策する中、状況は悪化の一途をたどっている。

 

この緊張を高めている重要な論点は、台湾海峡である。

 

近年、米国は台湾への武器・軍備の供給を増やす一方、台湾の軍備の改編を支援し、台湾政府の独立志向を強力に後押ししている。

台湾は、北はアリューシャン列島から日本、フィリピンを経て南は大スンダ列島に至る「第一列島線」の一部であり、米国と中国にとって地政学的に極めて重要な意味を持つ。

 

この「太平洋のフロンティア」こそ、米中両国が自国の防衛線として定義しているものである。

 

近年、フォルモサ(ポルトガル語で「美しい」という意味で、20世紀まで西洋の地図に使われていた名称)の政治家は一貫して米国との関係を強化する政策をとっており、これはワシントンの反中国的言辞と完全に一致している。

中華人民共和国の指導者は「一つの中国」政策に反する行動は容認できないことを繰り返し明言している。

 

これは、両国関係の基礎となっている1972年から1982年までの3回の米中共同コミュニケの規定も同様である。 

 

中国が米国に新たな警告を発した

中国政府は最近「台湾の祖国への統一」は北京の国家安全保障の基本的な利益であり、必要であれば軍事力で守るに値するとして、そのレトリックを増々好戦的なものにしてきている。

一方、1979年に制定された台湾関係法の曖昧な文言のおかげで、米国政府は台湾に対する具体的な支援義務の有無に関する質問には答えないようにしている。

 

同時に、米国の政治体制や専門家の間では、中国との経済的・地政学的な対立から、公然の紛争に移行する準備が全くできていないのである。

中国を巡る米国のエスタブリッシュメントの混沌を示す典型的な例は、8月に予定されているナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問によく表れている。

 

米国第3の権力者による台湾訪問の可能性が最初に報道されたのは2022年4月のことだった。

 

しかし、その訪問は、コロナの検査で陽性反応が出たためとされ、実現しなかった。

 

ペロシの事務所は公式な確認や否定を発表していないが『フィナンシャル・タイムズ』は、事情に詳しい情報筋の話として、議長の今回の訪問はほぼ決定していると報じている。

 

NBCの情報筋が後に主張した様に、彼女のアジア歴訪に島への立ち寄りが含まれるか否かは不明なままである。

興味深いのは、1997年に当時のニュート・ギングリッチ下院議長が台湾を訪問していることだ。

 

しかし、その時は、ビル・クリントンの民主党政権と対立していた共和党の代表であった為、少し違っていた。

 

ペロシとバイデンは同じ党であり、反中国的な性格を持つワシントンの公式外交路線を体現する事になる。

 

又、バイデン政権は、台湾政府とエスパー前国防長官との間で行われている交渉の中で、台北への武器・装備売却の第5次計画を確認した後、同議長の訪問に関する情報が流れた。

この前代未聞の措置に、北京は直ちに反応した。

 

外交部の趙麗健報道官は、中国は米国当局と台湾島とのいかなる形の公式交流にも強く反対すると述べ、議会は米国の政治体制に不可欠な部分である為、一国主義を遵守する要件と3つの米中共同コミュニケの内容が完全に適用されると強調した。

 

これに従い、北京はワシントンに対し、訪米を中止し、台湾海峡の緊張を高めることをやめ、台湾の分離独立を支持する行動をとる事を止めるよう要求した。

 

中国外務省によれば、もし米国が現在の様な道を歩めば、中国は国家主権と領土保全の為に強力で断固とした措置を取るだろうから、ワシントンはその行動の起こり得る結果を全て念頭に置いておくべきだと云う事だ。

ホワイトハウスと国防総省は、世界第二の経済大国であり海軍を有する中国との関係において、長期的かつ予測不可能な結果を招くことに対して、恐らく未だ準備ができていないのだろう。

 

7月21日、バイデン大統領は、米軍高官はペロシの台湾訪問を現時点では良いアイデアとは考えていないと述べた。

北京は、ワシントンから台北を支持する 兆候があれば、それを快く思っていないこと は注目に値する。

 

4月にペロシ訪台の可能性が議論された際、中国空軍の飛行機4機が、台湾の自称防空識別圏の南西部に進入してきた。

 

中国軍、米国に警告を発す
 

一方、中国の王毅外相は、フランスのボン大統領顧問に対し、米国は領土と国家主権に関する問題で二重基準を追求し続け、国際関係の動揺を高めていると苦言を呈した。同大臣によると、北京は米国の政治指導者の台湾への公式訪問を意図的な挑発行為とみなし、全世界に極めて危険なシグナルを発しているという。

この立場はさまざまなレベルで示された。リック・ラーセン米下院議員は、中国大使館の職員とサンフランシスコの中国総領事から、訪台を中止するよう議長に伝えるよう要求されたと述べた。

この問題は、首脳の間でも話し合われた。

 

ジョー・バイデンと習近平の電話会談に関する声明で、中国当局者は台湾に言及する際に強い言葉を使った。

 

「火遊びをする者は火に焼かれる」

米国がこの点について」

「明確な目を持つことが望まれる」と、述べている。


環球時報は、ペロシの訪問は戦略的な結果をもたらすと考える中国の専門家を引用し、北京の反応も戦略的であるべきだから、その後の報復行動は、現在経済的に困難な状況にある米国にとって破滅的となり得ると指摘している。

 

中国社会科学院の研究者・呂祥氏は、ワシントンが演説者を台湾に派遣する決意は、米国当局が北京の忍耐力を試し、外交政策の行動許容の新しい閾値を設定したいことを示していると見ている。

軍事専門家の宋中平氏は、米国の民主党は11月に行われる議会中間選挙を前に、その地位を向上させる為にあらゆる手段を講じており、これには台湾の民主化に対する支持を示すことも含まれていると述べた。

 

中国人ジャーナリストの胡志仁氏は、ペロシ氏の台湾へのフライトを護衛するために戦闘機を派遣し、台湾海峡に空母を配備することを提案している。

 

台湾軍が発砲した場合、北京は脅威となる台湾のあらゆる目標を破壊する権利を有する。

 

そして、もしアメリカがあえて救援に来るのであれば、それは解放と統一の時であろう。

米国のアナリストは、中国共産党が習近平にとって重要な第20回中国共産党全国代表大会を前に、アメリカとの不必要な対立を避けたいとして、北京の対応はソフトで象徴的なものになると考えているのかもしれない。

 

一方、共産党の軟弱さを当てにする理由は全くない。

 

王毅はインドネシア・バリ島でのG20サミットの傍ら、米国のアントニー・ブリンケン国務長官に「3つの共同コミュニケは不可侵である」と警告した。

 

これは明確に解釈されるべきで、ワシントンの挑発が行き過ぎた時点で、北京との二国間関係は絶望的に損なわれることになる。

同時に、中国当局は、北京、台北、ワシントンが何とか妥協に達した1996年の「台湾危機」の時よりも、この件ではさらに踏み込む用意があるようだ。

 

今年6月にシンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアローグ」で、中国の魏鳳和国防相は

 

「台湾を中国から引き離そうとする者がいれば」

「北京は武力を行使し、徹底的に戦う」

 

と、宣言している。

 

中国が台湾で戦うと宣言したのは、挑発行為ではない
 

2021年5月、The Economist誌は台湾を『地球上で最も危険な場所』と呼んだ。

 

地球上で最も危険な場所

 

同誌によれば、中国軍艦が常に台湾の周囲を航行し、航空機が「防空識別圏」に侵入している事は、早ければ2025年にも予想される差し迫った侵略の準備が進められている事の明白な証拠であるという。

 

台湾は2025年までに中国の侵略を恐れている
 

バイデン政権になってから、米国で本当の反中ヒステリーが勢いを増しているのは極めて不愉快である。

 

ピュー・センターの調査によると、同国の成人人口の89%までもが、中国をライバルあるいは敵視しているが、友人ではないと考えており、その他の回答者も皆、中国に対して極めて否定的な見解を持っている。

 

人権や経済問題で中国に厳しい姿勢をとることを支持する米国人が大多数

バイデン大統領が、大陸からの攻撃に備えて米国が台湾に軍事支援を行う用意があると発言した事を受け、政治家や専門家は、従来「戦略的曖昧さ」で成り立っていた台湾に対する公式見解を、より「戦略的明確さ」のあるものに変えるよう米国に強く求めている。

 

バイデン氏、中国が攻撃した場合、米国は台湾を防衛すると発言

2021年1月、ドナルド・トランプ大統領の退任政権は、大陸からの侵略があった場合、ワシントンが台北を保護する意図を確認する文書を公表した。

 

本来は2042年にのみ機密解除の対象となる「米国のインド太平洋戦略フレームワーク」では、米国は「第一列島線」内で中国が海上、航空で優位に立つことを阻止し、台湾を含むこの地域のすべての国々を保護すべきであると提言している。

 

ワシントンは、デジュール上、この島を国として分類していないため、おそらく混乱はないだろう。

しかし、ワシントンと北京の間で紛争が起きたとしても、どちらかが「小さな勝利の戦争」になることはないだろう。

 

たとえ中国が台湾を速やかに占領できなかったとしても、アジア太平洋地域で米軍と戦うことに固執するだろう。

 

東アジアの「核のミッドナイト」:台湾海峡の新たなエスカレーション・リスク

 

一方、島を失ったとしても、ペンタゴンは作戦を縮小しない。中国軍の潜在力を無力化しなければ、これまでの努力が無意味になるからだ。

 

2021年12月、フォーリン・アフェアーズ誌はワシントンと北京に、台湾をめぐる紛争は自分達と殆どの東アジア諸国にとって破滅的なものになりかねないと警告した。

 

なぜなら、主要参加国は敗北に直面すれば、核兵器を使用して状況を有利に変えることができるからだ。

 

中国との間違った戦争に備えるワシントン州
 

米国と中国には、イラン、北朝鮮、ロシアなど、米国が生産的な関係を構築できていない問題に関して、未だ可なりの対話の余地があるのは間違いないだろう。

 

しかし、ホワイトハウスが「台湾問題」を含む中国の基本的な安全保障上の利益を脅かす事を止めなければ、北京は米国の覇権主義に屈せず、その拡張政策に苦しんでいる国との関係を強化せざるを得ないだろう。

同時に、これまで「一帯一路」構想による各国との経済協力や人道支援による友好関係の構築に頼ってきた中国指導部は、今度は安全保障の分野で多国間協力を強化し、中進国の安全な環境作りに努める必要がある。

ロシア国際問題評議会専門家 アンドレイ・グービン 記