日本IBMは23日、米IBM製の最新の量子コンピューターを川崎市の「かわさき新産業創造センター」(KBIC)に設置することが決まったと発表した。量子コンピューターの実機が設置されるのは国内では初めてとなる。数カ月以内に設置し、2021年中に稼働を開始する予定。コンピューターにアクセスする占有権を持つ東京大が中心となって企業と連携して、量子コンピューターの実用化を目指すという。

量子コンピューターは、光など波と粒子の性質を併せ持つ「量子」を利用し、多数の計算を並列して処理する従来型と全く違う仕組みの計算機。新しい薬や素材の開発、資産運用などに活用できると期待されている。今回設置されるのは、理論的に汎用(はんよう)性があるとされる「ゲート方式」というタイプの量子コンピューターで、米IBMと米グーグルなどがそれぞれ開発を進めている。

東大は19年12月、日本IBMとのパートナーシップを結んだ。20年7月には、産学官で量子コンピューターの実用化を進める「量子イノベーションイニシアティブ協議会」を設立した。協議会には東大と日本IBMのほか、慶応大、東芝、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループなど計2大学、12企業が参加。協議会のメンバーはクラウドを通して川崎市に設置する量子コンピューターにアクセスできるようになる。

米IBMは現在、米ニューヨーク州に30台以上の量子コンピューターを保有している。これらのコンピューターには世界の140以上の企業や大学などがクラウドでアクセスして使用している。協議会に参加する企業や大学の多くも、このクラウドを用いてきたが、世界中の人が利用するため、使用できる時間は限られていた。これに対して国内に量子コンピューターが設置されれば、より長い時間使用して研究を進めることができるようになる。

同協議会プロジェクトリーダーの相原博昭・東大副学長は「最先端の計算機の占有時間が延びる利点は圧倒的に大きい。産学連携で量子コンピューターのアプリを開発し、利活用を加速させていきたい」と話す。日本の他には、ドイツでも21年中に自国内で実機の稼働が始まる予定だという。

コンピューターが設置される、かわさき新産業創造センターは、実験室機能を持った研究開発型のインキュベーション施設(創業企業向け貸しオフィス)。日本IBMも研究拠点の一つとして活用している。