サインの話をしていますが、『古典占星術』を読んでも、このブログを読んでも、今まで聞いたことのないサインのお話かと思われる方々が大勢いらっしゃることと思います。その理由は、現代の古典占星術研究家たちが、サインの意味を再構築しているからです。
何故、現代の古典占星術研究家たちが、サインの意味を再構築しているのでしょうか。古典的な書物から出てくるサインの意味をそのまま使えばいいのではないか… そう思われるでしょう。しかし、ちょっとここに書くことを読んでみてください。

天球の上部に位置するサインが果たす主要な役割は、惑星がチャートの中で表現する意味を修正することです。
古を辿ると、古代の占星術から伝えられたサインの意味が、3つできてしまいます。1つ目は、コンステレーション(星座そのもの)の意味からサインの意味にされたものがあります。何故なら、惑星たちの通り道には決められた星座が12+1ばかりあったからです。それは、サイドリアル方式と呼ばれるものとも違いますし、トロピカル方式が出てくるずっと以前の考え方です。360度法が存在し、そこに12で割る方法がピタリと当てはまるので、12のサインにしたようです。ヘレニスティックな占星術が構築される前からあったものです。
2つ目は、ヘレニスティックな西洋占星術が構築された頃に、そのサインの前方に広がるコンステレーションの意味が一部付け加えられた、サイドリアル方式と呼んでもいいものです。そこでは、デーカン(10度ずつのフェイスの場所)に、やはり恒星の意味が載せられています。例えば、古代のテウサー(又は、テウクロス)という占星術師から伝えられた獅子のサインの説明に下記のようなことが書かれています。
1番目のデーカンは、土星のフェイスを運び…… 更に、ここに上昇する明る
い恒星があり、それは獅子の心臓にあるもので、レグルスと呼ばれる、火星と
木星の性質のもので、1等星であり、6度と12分にある。
恒星レグルスはもはや獅子のサインにはなく、コンステレーションの中の獅子座の心臓レグルスは乙女のサインに入っています。
3つ目。ヒッパルコスが紀元前2世紀に歳差運動を発見します。これは直ぐには認められなかったようで、プトレマイオスが『アルマゲスト』で丁寧に説明するまで、歳差運動のことは占星術に持ち込まれませんでした。多くの占星家は、その時点で、まだサイドリアル方式を使っていました。プトレマイオスはこの適切な説明により、サインは至点を境にして、可動宮、固定宮、変動宮にした方が理に叶っていると唱えます。この考え方が広まり(3~400年もかかるのですが)、3つ目のサインの意味ができあがります。
さて、どれを信ずればいいのでしょう。
プトレマイオスが説明するように、至点を原点にしないと、カーディナル(可動宮)、フィクスト(固定宮)、ミュータブル(変動宮)は明らかに使うことができません。この理路整然とした書き方が、プトレマイオス以降、サインを春分点の移動に伴わせて解釈するようになる占星術師が徐々に増え始めます[トロピカル方式です]。プトレマイオスは様々なサインの区分方法を書いてはいますが、個別のサインの意味を書いていません。ひょっとしたら、サインベースの構成を元々大事にしていたのかもしれません。つまり、同じ上昇時間を持つサイン同士とか、同じ昼の長さを持つサイン同士とかの区分です。
これらサインの原意をどう捉えればいいのかは、まだまだ謎に包まれたままですが、サインの意味を汲み取らないと判断ができないこともあります。それが、サインの意味の再構築を促しているのです。
「サイン」という単語そのものも、かなり複雑で、ギリシャ語のZoidiaを正確に表
す英語がないことから、一時的に「サイン」という語を当てはめているだけです。
「イメージ」とも、「小さな動物」とも、「表象」とも、いかんとも日本語にもな
りにくい語なのです。
また、ひょっとしたら、モダンな牡羊のサインの意味も、おひつじ座と呼ばれるコンステレーションの方の意味をこの300年間ほどに持ち込んでいるかもしれません。牡羊のサインの手前に広がるのは現在、うお座(コンステレーションの方)です。
サインと、コンステレーションの書き方の区別方法は一応、
ひらがなで「おひつじ座」と書くと、コンステレーションの方になります。天文学での
表記方法です。
漢字で「牡羊座」や「白羊宮」とすると、サインのことになります。西洋占星術での表
記方法です。
私は、ごっちゃになるのを避けるために、「牡羊のサイン」と書いています。実際には、
雑誌のコラムなどで、ひらがな表記「おひつじ座(本来は天文学的な星座コンステレー
ションを指す)」をよく見かけるのですが、そこまで、雑誌編集者も知らないのだと思
います。
懸念をしているのは、牡羊のサインは動物のサインなのですが、本当に今でも動物のサインの意味を持ち続けているのか疑問です。牡羊のサインがラッシュ(あわてんぼう)であるのは、火星の意味で充分言い表せますし、明るく朗らかという意味も、火星や太陽の意味で言い表せます。でも私は、上記の動物の意味は残されてもいいのかなと考えています。
現在、牡羊のサインの前に広がるのは、コンステレーションのうお座ですけれども、うお座の雰囲気をあまり入れ込むことはありません。うお座の一等星であるフォーマルハウトは、まだうお座にあります。アンドロメダ座のアルフェラーツェ(2020年位置、牡羊の14.34)があります。金星と水星の性質を持つ[レトリウスの説、58節]、自立を促す、自由で洞察力のある知性を備えた、富と栄誉の星とされます。これが牡羊のサインの意味を構築している? なんてことはないでしょう。
最初、太陽が春分から徐々に昼の時間を長くし始めるから、小さな動物に当てはめれらたという説明も変えなければいけないかもしれません。次の牡牛のサインは、少し大きな動物になる、そして、双子のサインでは倍加されると語られてきました。
コンステレーションの方の意味は、グラさんの書いた『恒星占い』にあるので、これはこれでサインとは別の意味を持つとして判断して間違いありません。ただ、徐々に動くので、注意しないといけません。私の生まれたころはレグルスは確かに獅子のサインにありましたが、今日この頃生まれた子供たちのレグルスは、乙女のサインの0度にあります。この違いをしっかり把握して恒星を判断されるといいでしょう。もちろん、昔の本には王になると書かれていますが、通常の解釈では、家督を継ぐです。占星術そのものが「王家」のものであったことを髣髴とさせます。
2025年位置の恒星の表をアップしないといけないのですが、できていません。今しばらくお待ちください。
サインから恒星の話に飛んでしまい収拾がつかなくなりましたが、過去から伝えられたサインの意味から恒星の意味を取り去り、サインそのものの意味を、サインのルーラーやイグザルテーションのルーラー、そしてデトリメントになる惑星やフォールの惑星の意味が出てくるように、季節のエレメントを加えてサインの意味を再構築している意味がお分かりいただけたでしょうか。
西洋占星術は、まだまだ体系的に完全に整えられたものではないことを分かって頂けるものと思います。だからといって、理論を外れると、これまた意味不明な占星術になってしまいます。共同研究が急がれるところです。