古典的な占星術に潜む 秘密の法則

  古典的な占星術に潜む 秘密の法則

        西洋占星術の源泉をさぐる 河内邦利

 トロピカルなサインのことを、全ての占星術師が賛同しているわけではないのですけれども、おそらく現代の占星術師の多くは春分点等を至点として持つこのトロピカル方法を原則的に使っているものと思います。

 近代とは言いうものの、多くの雑多なコンステレーションの意味を取り払ったサインの意味を書いたのは、13世紀のグイード・ボナタスがその一人であろうと思われます。彼はエレメントのことを前面に押し出してサインの意味を説明している、比較的私たちに近い時代の人です。

 彼は克明に、何故サインが12であるのかを説明するのに、小さな整数で最も多くの数で割れる数字が12であると述べます。1でも、2でも、3でも、4でも、6でも割れるといいます。又、4つしかないエレメントが3つのもの、すなわち、全ての物に固有の、始まり、中ほど、終りといった物事の推移が存在し、それで4×3=12になるのだと説明します。

 サインは、4つのエレメントである[4]で割れなければならないとします。すると、8か、12か、16になるわけですが、各季節を3分割にして、4つのエレメント×3(始まり、中ほど、終り)とすると、12が丁度いいことになります。

 エレメントの説明では、サインそのものは(神の領域にあるので)汚されるわけはなく、エレメントが汚されていく理由は、惑星たちの絶え間ない円運動によって、回転によって汚されるとします。それらは月下の世界に影響を及ぼすのですが、惑星たちは互いに複雑な動きをするものですから、ありとあらゆる個性が発生することになります。

 ボナタスの説明によれば、エレメントそのものは複雑ではなく、それぞれが特有の属性しか持ち合わせていません。火に特有の属性は熱であり、風に特有の属性は湿り気であり、水に特有の属性は冷気であり、地に特有の属性は乾くことであるとしています。

 ボナタスの意見ではありませんが・・・
火のエレメントのサインは、動き出すことに関係しています。ギリシャの哲学では、熱があることによって物事は動き出すからです。牡羊、獅子、射手のサインは、どのサインも[作動する]と語られます。全てのカーディナル・サインは、小さな・節度ある・穏やかに、動き出します。フィクスト・サイン[獅子のサイン]は、節度から離れ、破壊の側にやがて傾かせるように、[作動]します。火のミュータブル・サイン[射手のサイン]は、穏やかさや節度から最も遠く離れ、破壊するように、ホットとドライが極端に進み、乾燥状態[地の属性に近い]をその印象として与えるように[作動]します。この破壊は、次のカーディナルにつながるように、射手のサインの矢に矢文を付けて必要な所に届けられます。破壊だけではこの世は続いていかないので、どこかに元に戻すような兆候が [どのエレメントのサインにも] 込められているわけです。火のサインでは、矢文に象徴されています。生活に必要な火と共に、智慧の伝達が火のサインに含められているわけです。

 春の火のサインは、ホットでモイストを基として、ホットでドライな牡羊が受け持ちます。夏の火のサインは、ホットでドライを基として、ホットでドライな獅子が受け持ちます。秋の火のサインは、コールドでドライを基として、ホットでドライな射手のサインが受け持ちます。

 

 サインの話をしていますが、『古典占星術』を読んでも、このブログを読んでも、今まで聞いたことのないサインのお話かと思われる方々が大勢いらっしゃることと思います。その理由は、現代の古典占星術研究家たちが、サインの意味を再構築しているからです。

 何故、現代の古典占星術研究家たちが、サインの意味を再構築しているのでしょうか。古典的な書物から出てくるサインの意味をそのまま使えばいいのではないか… そう思われるでしょう。しかし、ちょっとここに書くことを読んでみてください。

 


天球の上部に位置するサインが果たす主要な役割は、惑星がチャートの中で表現する意味を修正することです

古を辿ると、古代の占星術から伝えられたサインの意味が、3つできてしまいます。1つ目は、コンステレーション(星座そのもの)の意味からサインの意味にされたものがあります。何故なら、惑星たちの通り道には決められた星座が12+1ばかりあったからです。それは、サイドリアル方式と呼ばれるものとも違いますし、トロピカル方式が出てくるずっと以前の考え方です。360度法が存在し、そこに12で割る方法がピタリと当てはまるので、12のサインにしたようです。ヘレニスティックな占星術が構築される前からあったものです。

2つ目は、ヘレニスティックな西洋占星術が構築された頃に、そのサインの前方に広がるコンステレーションの意味が一部付け加えられた、サイドリアル方式と呼んでもいいものです。そこでは、デーカン(10度ずつのフェイスの場所)に、やはり恒星の意味が載せられています。例えば、古代のテウサー(又は、テウクロス)という占星術師から伝えられた獅子のサインの説明に下記のようなことが書かれています。

   1番目のデーカンは、土星のフェイスを運び……  更に、ここに上昇する明る

   い恒星があり、それは獅子の心臓にあるもので、レグルスと呼ばれる、火星と

   木星の性質のもので、1等星であり、6度と12分にある。

恒星レグルスはもはや獅子のサインにはなく、コンステレーションの中の獅子座の心臓レグルスは乙女のサインに入っています。

3つ目。ヒッパルコスが紀元前2世紀に歳差運動を発見します。これは直ぐには認められなかったようで、プトレマイオスが『アルマゲスト』で丁寧に説明するまで、歳差運動のことは占星術に持ち込まれませんでした。多くの占星家は、その時点で、まだサイドリアル方式を使っていました。プトレマイオスはこの適切な説明により、サインは至点を境にして、可動宮、固定宮、変動宮にした方が理に叶っていると唱えます。この考え方が広まり(3~400年もかかるのですが)、3つ目のサインの意味ができあがります。

 さて、どれを信ずればいいのでしょう。

プトレマイオスが説明するように、至点を原点にしないと、カーディナル(可動宮)、フィクスト(固定宮)、ミュータブル(変動宮)は明らかに使うことができません。この理路整然とした書き方が、プトレマイオス以降、サインを春分点の移動に伴わせて解釈するようになる占星術師が徐々に増え始めます[トロピカル方式です]。プトレマイオスは様々なサインの区分方法を書いてはいますが、個別のサインの意味を書いていません。ひょっとしたら、サインベースの構成を元々大事にしていたのかもしれません。つまり、同じ上昇時間を持つサイン同士とか、同じ昼の長さを持つサイン同士とかの区分です。

これらサインの原意をどう捉えればいいのかは、まだまだ謎に包まれたままですが、サインの意味を汲み取らないと判断ができないこともあります。それが、サインの意味の再構築を促しているのです。

  「サイン」という単語そのものも、かなり複雑で、ギリシャ語のZoidiaを正確に表

  す英語がないことから、一時的に「サイン」という語を当てはめているだけです。

  「イメージ」とも、「小さな動物」とも、「表象」とも、いかんとも日本語にもな

  りにくい語なのです。

また、ひょっとしたら、モダンな牡羊のサインの意味も、おひつじ座と呼ばれるコンステレーションの方の意味をこの300年間ほどに持ち込んでいるかもしれません。牡羊のサインの手前に広がるのは現在、うお座(コンステレーションの方)です。


 サインと、コンステレーションの書き方の区別方法は一応、
 ひらがなで「おひつじ座」と書くと、コンステレーションの方になります。天文学での

 表記方法です。
 漢字で「牡羊座」や「白羊宮」とすると、サインのことになります。西洋占星術での表

 記方法です。
 私は、ごっちゃになるのを避けるために、「牡羊のサイン」と書いています。実際には、

 雑誌のコラムなどで、ひらがな表記「おひつじ座(本来は天文学的な星座コンステレー

 ションを指す)」をよく見かけるのですが、そこまで、雑誌編集者も知らないのだと思

 います。


懸念をしているのは、牡羊のサインは動物のサインなのですが、本当に今でも動物のサインの意味を持ち続けているのか疑問です。牡羊のサインがラッシュ(あわてんぼう)であるのは、火星の意味で充分言い表せますし、明るく朗らかという意味も、火星や太陽の意味で言い表せます。でも私は、上記の動物の意味は残されてもいいのかなと考えています。

現在、牡羊のサインの前に広がるのは、コンステレーションのうお座ですけれども、うお座の雰囲気をあまり入れ込むことはありません。うお座の一等星であるフォーマルハウトは、まだうお座にあります。アンドロメダ座のアルフェラーツェ(2020年位置、牡羊の14.34)があります。金星と水星の性質を持つ[レトリウスの説、58節]、自立を促す、自由で洞察力のある知性を備えた、富と栄誉の星とされます。これが牡羊のサインの意味を構築している? なんてことはないでしょう。

最初、太陽が春分から徐々に昼の時間を長くし始めるから、小さな動物に当てはめれらたという説明も変えなければいけないかもしれません。次の牡牛のサインは、少し大きな動物になる、そして、双子のサインでは倍加されると語られてきました。

コンステレーションの方の意味は、グラさんの書いた『恒星占い』にあるので、これはこれでサインとは別の意味を持つとして判断して間違いありません。ただ、徐々に動くので、注意しないといけません。私の生まれたころはレグルスは確かに獅子のサインにありましたが、今日この頃生まれた子供たちのレグルスは、乙女のサインの0度にあります。この違いをしっかり把握して恒星を判断されるといいでしょう。もちろん、昔の本には王になると書かれていますが、通常の解釈では、家督を継ぐです。占星術そのものが「王家」のものであったことを髣髴とさせます。

2025年位置の恒星の表をアップしないといけないのですが、できていません。今しばらくお待ちください。

サインから恒星の話に飛んでしまい収拾がつかなくなりましたが、過去から伝えられたサインの意味から恒星の意味を取り去り、サインそのものの意味を、サインのルーラーやイグザルテーションのルーラー、そしてデトリメントになる惑星やフォールの惑星の意味が出てくるように、季節のエレメントを加えてサインの意味を再構築している意味がお分かりいただけたでしょうか。

西洋占星術は、まだまだ体系的に完全に整えられたものではないことを分かって頂けるものと思います。だからといって、理論を外れると、これまた意味不明な占星術になってしまいます。共同研究が急がれるところです。

 私は、モダンな占星術を作り上げた誰かは、実際には我々以上に占星術をよく知る人物であったであろうと考えています。為政者(当時のヨーロッパの各国の政治を裏から担当していた王家同士)は、本物の占星術を誰にでも渡したくなかった。そこで、その有能な占星術師、しかも、お抱えの占星術師に頼み込み、その人物が、ハウス=サイン にしたのだと思います。しかも一部は占えるように整え、庶民に取っつき易いように幾つかの事柄を変更し、本物は王様たちの為に独占します。本物の占星術はこうやって為政者によって庶民に渡されなくなりました!! こちらの方がきっと本当の裏話です。ヨーロッパの各国語で占星術の本を出版しないといけませんから、潤沢な資金が無いとできないことです。そうなると、だんだんそれらしい人物が特定されてきます。しかし、確証はありません。


3ハウスに深く関わる惑星は月です。3ハウスの持つ通信の意味(最も多く惑星同士の間を動く)も、3ハウスの持つご近所の意味(月は地球の隣にあります)も、3ハウスの持つ兄弟の意味(月は地球の兄弟です)も、全て月から導き出されていました。

西洋占星術が構築されてから1700年間、ず~っと月がこれらの意味を3ハウスに与えた惑星だったのです。17世紀以降、ここ300年ほどの間、双子のサインのルーラーである水星が通信の意味を持つとされました。

 何故、月から水星に変わってしまったのでしょうか?

 それは、ジョイというハウスシステムに固有の惑星の存在が忘れ去られたからです。

昔は3ハウスとは呼ばずに、ハウス・オブ・デア(House of Dea)と呼んでいたのです。その意味は女神のハウスです。Dea(デア)とは月の女神のことです。ハウスを番号順に呼んでいなかったので間違えようがなかったのです。(ハウスとサインは違う文化から持ち込まれています)

Dea は女神、Deus(デウス) が神でした。Deus のハウスはオポジションの9ハウスです。9ハウスの方はそのまま、神のハウスとして残されています。

月は様々なものを運ぶ回数が最も多い惑星です。他の惑星たちの光を運ぶのです。惑星の持つ光を運ぶ働きによって占星術は機能します。伝える惑星と受け取る惑星があります。その間に、光と光のコンタクトがなされるのです。惑星の持つ光は、伝言・通信・伝達をするのに必要な情報だと捉えられてきました。光の転送を最も回数多くこなすのが「月」ですから、通信の星とされてきました。それが変じて手紙になりました。現代ではメールです。

水星も情報を運ぶ惑星ですが、月が順行しかしない惑星として一途に光を届けようとしますが、メッセンジャーである水星は、時々逆行もして、相手に意図して届けない場合もあります。水星はエフェメリスを見ないと、必ず読み間違えます。水星が前方にある惑星の手前で逆行をしてしまい、それを届けるはずの惑星に届かないこともあるのです。

また水星は、内容の全てを伝えない場合も、身振り手振りで分かり易く説明する場合もあります。主人の伝言を、相手に分かり易くメッセンジャーとして届けるのが水星です。

月は、そっくりそのまま伝える、まさに手紙、郵便配達夫、宅配便の配達員の役割をします。手紙やメールの内容が発信者の書いたものと違うことはないでしょう。発送された小包も、中身が途中で変えられることは、配達員が悪意を持たないかぎり有り得ません。

特に、月が最も早く動く惑星で、惑星から惑星へ何度も何度も光を手渡している様子から、月が光を最も頻繁に手渡しているからこそ、伝達の使者として相応しいとされたのです。

 それが水星に変えられたのは、ここ300年ほどのことです。

 さて、ジョイのシステムを忘れ去っていると書きました。

ジョイのシステムとは何でしょうか? それは、ヘレニスティックな占星術ではまだ整えられていなかった、しかし、ノミネートはされていたハウスに関連する惑星たちの捉え方の一つです。下記の図のようになっていました。

 

 

考案された、ハウス=サイン、という図式ですが、3ハウスは双子のサインと同等にされました。双子のサインのルーラーは水星ですから、自動的に3ハウスの意味である通信は、水星になります。ここでも、歴史は無視されます。

1世紀に占星詩『天の聖なる学』を書いた抒情詩家マニリウスは、10ハウスに金星を、4ハウスに土星をノミネートしています。この意味は、今日でも機能します。10ハウスの金星は、社会的な結婚を表し、4ハウスの土星は不動産や大地、果樹園や農地などを表します。

 

モダンな占星術には心理的な推移を読み解くという、極めて顕著な特徴がありますから、これを歴史的な流れと融合すると、とても特徴的な占星術が組み立てられると思っています。

 

 

 

双子のサインは、春のホットでモイストな季節のホットでモイストなサインです。最も春らしいサインのはずなのですが、ミュータブル・サインで季節の後始末をするサインとなります。ミュータブル・サインには元に戻すという意味があります。タブル・ボディッド・サインとも呼ばれ、春らしさと夏らしい日々が交互に訪れるようになります。ホットでモイストな春から、夏のホットが、ホットでモイストに加えられる、幾分ホットの部分が多くなりつつあるサインなのです。

このサインで正反対のエレメントの水星は、ゼウス(ユピテル・木星)のメッセンジャーとしてあらゆる方向へ飛んで行けます。風の性質は、水の性質よりも流れ出す方向が定まらず、それでいて水星はしっかりと自分というものを持てる惑星です。各季節の終わりのミュータブル・サインは全て内省的、精神的な強さがあるように思われます。これらが相まって、水星に相応しいサインとなっているのでしょう。水星は伝令役(木星のメッセンジャー)であり、けして通信の惑星ではありません。

木星がデトリメントになります。同じエレメント(ホット&モイスト)なのに、デトリメントになるのは、木星の外へ向かう性質が風のサインで制限が効かなくなるからです。木星は確かに、火のサイン(♐)と水のサイン(♓)を支配しています。そして、水のサイン(♋)でイグザルテーションです。