私はホラーク先生に昔聞いた言葉を思い起こしていた。


"あなたは、まだ基礎が出来ていません。今は基礎をきちん身につけることが一番大事です。なのであなたの場合は、コンクールにあまり振り回されすぎる必要はありません。"



"「本当に音楽のわかる人」というのは、こわいものなのです。1曲弾けば、すべてばれてしまいます。何ひとつごまかすことができません。だから、そういう人の前に出た時に恥ずかしくないようにしなさい。基礎を身につけなさい、いろいろな分野の一流の芸術に触れなさい、教養を身につけなさい、いろいろな経験をしなさい。"



"それがどんなにすごいピアニストでも、他の誰かの(演奏の)真似はいけません。

あなたの言葉(=音楽)で話してください。"



音楽を「言葉」に例えて表現する、その表現の仕方などは、少なくとも私はホラーク先生以外のピアノレッスンでは聞いたことがなかった。


しかし、「音楽で自分自身を語れ!」という怒鳴り声ではあったが、昔懐かしい言い回しを、この日久しぶりに聞いたのだった。



とにかく、今日は、昔を彷彿とさせるシンクロニシティがいろいろ起こっただけでなく、思いもよらなかった想定外のことが起こった一日だったな、と私は考えていた。

 


25年前、一体何をやっているのか誰も理解出来ず、心無い批判も受けた、ひたすら基礎を固めるというホラーク先生の地味なレッスン方針やレッスン内容、それが、この日の試験に、25年という長年のブランクにもかかわらず、全て余すことなく役立って、私の未来を扉を開いてくれたのだった。