4年次に入学した私は、理論系の関連科目の授業で、日本からの留学生である、2人の友達ができた。


2人は、漢字こそ違ったが、同じ発音の名前だった。ここでは仮に、玲子ちゃんと麗子ちゃん、としておく。


2人のレイコちゃんは、どちらも高校を卒業したばかりで留学してきた18歳で、私の約半分の年齢。2人ともA先生の門下生。私はB先生の門下で、門下は違うが、同じ授業を履修していたことで、私達はすぐに気が合い仲良しになった。


アナリーゼの授業の後、彼女達とランチしながらおしゃべりするのが、とても嬉しかった私だが、音楽院生活はそんなに甘くなく、次第に暗雲が立ち込め始めていた。


入学初年度の学年が終わりに近づき、学年末試験があと1ヶ月半後ぐらいに迫ってきたある日のこと、私は彼女達に話した。


「私、試験の自由曲、先生に変更されちゃったんだ。」


「え?!もう試験直前じゃない。それに例年通り、試験直前に発表になる追加の課題曲も、もうすぐ発表のタイミングじゃない。


今から2曲も新曲かかえて、どうやって試験に臨むの?いったい、何に変更されたの?」


「自由曲をリストからベートーヴェンのソナタに変更されたの。しかも、私、ベートーヴェンすごく不得意なのよ。」


「え、なに、それ絶対変だよ。

何で、直前に2曲も新曲をやらなきゃいけないの?


しかもベートーヴェンに変更なんて、なんかおかしいよ。ベートーヴェンって難しいし、弾き込まないといけないから、1ヶ月でなんか仕上げられないよ。


それに、今さら、新しい曲2曲も準備なんて、直前に無理だよ。」


「そうかな?」


「そうだよー。」


2人は口を揃える。


そして、ピアノ科は、個人レッスンのため、外部の目が入りにくく、先生が嫌がらせをして、嫌いな生徒に苦手な曲を弾かせて、試験にパスさせないようにして「潰す」ことなど、よくある話しだと教えてくれた。