「あなたは今現在は『本物のピアノ』でないもので練習しているね。」
という副学長の言葉を私は反芻していた。
その時、電子ピアノしか持っていないことを見破られていた。
かつ「今現在は」という言葉をとても強調していたことから推察するに「かつてはグランドピアノで練習していた」ことも、どうやら見破られてしまっていた。
一曲ですべてばれてしまうとホラーク先生の言っていた通りだった。
それにしても、この時、音楽院入試にチャレンジしたおかげで、25年前先生が教えて下さっていたことの意味を、偶然答え合わせが出来たのは幸運だった。
読んでもらえなかった志望理由書に書いた通り、それまでの私はピアノを辞めさせられたことで親を恨み続けていた。心理学を勉強しなおして乗り越えようとしても乗り越えられなかった過去を、ピアノの専門教育を再開する扉が開かれかれたことで初めて乗りこえられた。
そしてこの日以降、ピアノを辞めさせたことで親を恨む代わりに、ピアノを始めさせてくれたことを親に本当に感謝することができるようになった。
そうした意味でも、この日は記念すべき日となったのだった。