「次は音楽史の試験を行う。


モーツァルトの生まれた年は?」


「モーツァルトは1756127日に生まれ、

1791125日に亡くなりました。」


と即答すると、副学長は驚いた様子で


「あなたは音楽史の知識もたくさん持っていそうだね。


よし、音楽史もパスだ。」


とあっさりパス。



実は私はモーツァルトオタクなだけだった。


モーツァルト以外の作曲家については殆ど何も答えられない状態で、他の作曲家については、ベートーヴェンがモーツァルトより確か15歳ぐらい年下、という程度の知識しかなかった。


モーツァルトオタクの私にモーツァルトに関する質問、これは本当にラッキーだった。


ここまでは思いのほか順調に進んだ。




しかし次は、音楽理論、アナリーゼ(楽曲分析)


今度は、副学長自身がピアノに向かってバッハを弾き始めた。


なんという高潔で凛としたバッハ。抑制の効いた知的な表現と、論理的で理路整然とした構成。美しいノンレガート。さっき、「自己抑制」のことを言葉で教えて下さった副学長が、今度は演奏を通して、そのことを教授して下さっているかのようだった。


すごい名手の演奏を身近で聴けて心底感動していると、


副学長は時々和音をバンと鳴らしたり、特定のパッセージを繰り返したりして、


「これは何かね?」「これは?」



などと聞く。


私は、そもそも何を質問されているかがわからない。


「なんだ、こんなことも知らないのか?」