その人は続けて語った。
入学は、副学長である私の権限で許可できるが、卒業試験は凄く厳しいぞ。
公正を期すために、演奏者のことを直接知らない、数人の審査員が厳正に審査を行う。
この音楽院の卒業証書をそう簡単に渡すわけにはいかない。
自力で突破しなさい。
それから、この音楽院であなたが学ぶべきこと。
それは、自分の制御だ。
あなたはコントロールが悪い。
言いたいことがあり過ぎて演奏中、コントロールをしばしば失っている。
ここではコントロールの仕方を学ぶことだ。
音楽は時間の経過と共に展開する芸術だ。
こんな風にね(といって手でテンポをとる仕草をする)。
音楽というのは、時間の枠組みという制約の中で展開させ、表現することが前提の芸術なのだ。
そして、クラシック音楽には、曲が書かれた時代によって適切な演奏スタイルというものがある。しかし、あなたはその枠組みをしばしば超えてしまっているよ。言いたいことがあり過ぎてね。
だから、あなたがこの音楽院で学ぶべきテーマはコントロール(自己制御)だ。このことをいつも念頭に置いて、研鑽を積みなさい。
まあ、言いたいことがあり過ぎるだけなのだから、方法はある。制御を学べばいいのだ。
多くの場合、言うべきことが何もない、というのが問題で、その場合は対策のしようがないのだからね。
それよりはずっとマシだ。