過去が突然脳裏に蘇ったためボーッとしていたようで、その人がもう一度言った。


「弾いてみろ」


とピアノを指している。

 


我に返って私は答えた。


「わかりました。」


「何を弾く。」


「ショパンのアンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズです。」


「ふん」


その人がバカにしたように鼻先でせせら笑ったのがわかった。


今考えれば、入試でこの曲を選ぶという素人丸出しの選択を笑ったのだろう。



冷たい雰囲気と、過去の記憶が突如蘇ったことによる動揺と、人前で弾く緊張。


私は動揺した状態でピアノの前に座った。




アンダンテスピアナートを弾き始める。


心の動揺は隠すことができず、あろうことか、華麗なる大ポロネーズの部分でならまだしも、技術的に易しいアンダンテスピアナートの部分で何度もミスタッチをしてしまう。


ボロボロのアンダンテスピアナートが終わり、華麗なる大ポロネーズに入って、いくらも弾かないうちに


「はい、そこまで」


といきなり早々に、演奏を打ち切られる。


「アンダンテスピアナート」がボロボロの演奏だったから、メインの「華麗なる大ポロネーズ」はほとんど弾かせてもらえなかった…。


その審査員の演奏前の嘲るような様子を思い出し、このうえは、どんな罵声を浴びせられても自業自得で仕方がないと覚悟した。