父親 | 風天童

父親

父親@風天童
その魂は、今も大空を飛んでいるだろうか


父は16歳で自ら志願して、予科錬に入隊した

お国のためだとか、憧れ …それもあっただろうが

世を憂い、死んでもいい そんな想いだったと聞く


零戦に搭乗する訓練も受けた ただ

当時の所属部隊に、満足に飛べる飛行機はなかったという


ある夜、対岸で目にした空襲は夜空を紅に染め

絵にもいわれぬ風景だったと語った

そこに自らが舞うことを描いて、見上げる空


晩年の父は高所を恐れた どんな運命のいたずらか


敗戦からの復興、激動する昭和の時代とともに

死んでもいい、そう言いながら87年の人生を生ききった父


想えば、自らのためではなく周囲のために生きた時間

その胸中が、歳をなぞるごとに 少しずつわかってきた


僕は未だ、自分のために生きているのかもしれないよ


父が働く後姿は僕のまぶたにあり

今もそっと力をくれる


父の魂は、今も大空を飛んでいるだろうか