ゾラの『居酒屋』を読みました。

先週土曜日から今日までは9連休となる夏休み期間でしたが、休みの間にしたことといえば、木更津のアウトレットへの買い物、一日だけ夕食とチーズケーキを作った程度で、あとはテレビでパリオリンピックを観戦したり、この『居酒屋』を読んだり、映画鑑賞などをして過ごしました。

我が家に受験生がいることもあり、家族で出かけることもできない状況で、ほぼ自宅でゴロゴロしていたわけですが、猛暑が続く中、明日からの仕事に備えて体力温存ができたと考えたいところです。

ゾラはフランス文学を語るうえで必ず名前があがる重要な作家ですが、私はこれまで読んだことがありませんでした。

この『居酒屋』はゾラの代表作とされ、ゾラがライフワークとして完成させた全20巻からなる『ルーゴン・マッカール叢書』の第7巻に当たるものです。

19世紀後半、第二帝政期のパリの（最下級）庶民の生活が生々しく描かれています。

主人公のジェルヴェーズはまだ若く、少し跋を引いているものの大柄で健康的な美人です。しかし、若くして（長男は何と14歳で）子どもを産んでおり、20代前半で既に二人の子を持つ母親です。

ジェルヴェーズはその子らの父親ランチエと南欧からパリへ出てきますが、ランチエは母親の遺産を早々に食い潰してしまうと、ジェルヴェーズを棄てて女と蒸発してしまいます。この物語は、ある日突然2人の子どもを抱えた文無しのシングルマザーとなった主人公の波瀾万丈の人生を描いた作品というわけです。

ジェルヴェーズは洗濯屋で働くようになり、真面目に働いて何とか2人の子どもを養って生活していくようになります。そんな時、彼女に思いを寄せていたブリキ職人クーポーがしきりに彼女に結婚しようと言い寄り、初めは拒絶していたジェルヴェーズもとうとう根負けして彼の求婚を受け入れます。

新婚生活のスタート直後は夫も妻も真面目に働き、蓄えもできるようになり、ジェルヴェーズは自分の店を持ちたいという希望を持ち始めます。やがて街中に適当な物件を見つけた夫妻は、念願の自前の洗濯屋を開業します。当初は洗濯屋も順調で、開業の時の借金の返済も進んでいたのですが、クーポーが仕事中に屋根から落ちて足を折り、暫く仕事を休んでいる間に酒を飲むようになってからは少しずつ歯車が狂ってきます。

そのうち失踪していた前夫のランチエが街に戻り、ひょんなことからジェルヴェーズの洗濯屋の入るアパートに住むようになってからはジェルヴェーズ自身も酒を飲むようになり、仕事や生活全般にだらしなくなっていきます。いい加減な仕事のせいで客が離れていくと、洗濯屋も畳まざるを得なくなり、ジェルヴェーズは元の雇われ洗濯婦に逆戻りしてしまいます。そしてついには日々の食事にも事欠く有様となり、クーポーはアル中になって入退院を繰り返して死に、その後まもなくジェルヴェーズも自宅の寝藁の中で誰にも看取られることなく死を迎えます。

この作品は発表当初は新聞に連載されていたそうですが、あまりに生々しい描写が社会的に大非難され、新聞の購読停止が相次ぐなどしたために新聞の連載が打ち切られ、別の雑誌に連載されて完結したそうで、その後単行本として出版されると大ベストセラーとなったとのことです。確かに、フランス文学の中でもここまで貧民層の生活の実態を露わにした作品は珍しいと思われます。ちょうどパリオリンピックのマラソンでパリのきれいな街並みを眺めた直後にこの作品の世界にはまり、大きな衝撃を受けました。

主人公ジェルヴェーズは最後は身を持ち崩してしまいますが、根は真面目な田舎少女で、もう少しまともな男と巡り合っていれば、全然違った人生を歩んでいたかもしれません。（作品の途中、クーポーと結婚した後、真面目な鍛冶職人と出会い、お互い惹かれ合うのですが、結ばれることはありませんでした）

作品終盤の最貧民と成り果てた後の彼女の姿は悲惨そのもので、読むに耐えない感もあるのですが、なんとか人の助けに頼らず生きていこうとする姿勢には彼女の生来の真面目さが現れており、読者にとっては僅かな救いとなっているように思われます。

どんよりとした読後感が残る暗く重い作品ですが、この世界に浸っている中で、この作品の続編であるゾラのもう一つの代表作に挑戦しようと思います。

ゾラ『居酒屋』