2014/5/11 ヒグチアイ『三十万人』リリースツアーファイナルワンマン@月見る君想フ | 音楽偏遊

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ヒグチアイ『三十万人』リリースツアーファイナルワンマン
@南青山・月見る君思フ
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半袖で十分暖かい好天晴れの夕刻、開演30分前に「月見ル君想フ」に入ると、2階席まですでに満員ビックリマークみんななんという出足の早さ。それだけ、今日のこのライブを期待していたに違いない。

ワクワクして、近くの顔見知りと思わず声高に話しているファン、ファン、ファン…。100人は超しているだろうか。開演前の賑やかさに身を浸すだけで、会場の空気が期待感に満ちてくるのがわかる。キングクリムゾンのインストのようなBGMが、気分を一段と高揚させる。

スモークが一斉に吹き出し照明が落とされる頃までに、更にお客さんが増えて1階席はギュウギュウ。今夜は新アルバム『三十万人』リリースツアーの東京ファイナルだが、3ヶ月前に同じ「月見る」で開いたツアー初日のいってきますライブより客が多い気がする。この新アルバムを通じて彼女を知った新しいファンも、多数詰め掛けたのではないだろうか。


鍵盤 鍵盤弾き語りのヒグチアイだが、今夜は幕開けからスリーピース。オープニングで、畑利樹さんのドラムが激しく楽しげに打ち鳴らされ、山崎英明さんのベースがリズムを刻み出すのを、心から嬉しそうに見ている彼女の表情に、今夜のワンマンの成功を早々と確信した。だってアーティスト本人が楽しんでるライブは、聴く側もやはり楽しいもんだ笑顔

余談だが、昨今のヒグチアイはライブ前にくつろいだ表情を浮かべている事が多い。昔の張り詰めて攻撃的だったころに比べはるかに余裕を持っており、音楽をできる幸せを感じているようだ。ただ風邪や体調不良で声帯の調子が悪い時のライブ前は、開き直ったような笑顔を浮かべてる。不安の裏返しであり、お客さんへの責任感もあるのだろう。2月の三軒茶屋ワンマンとか、そうだったね。ところが今夜のオープニングで浮かべたのは、そんな不安をみじんも感じさせない笑顔だった。

 ♪   ♪   ♪

「朝に夢を託した」で歌いだした瞬間に、彼女の世界観が会場を覆い尽くしたのがわかった。その一声が、お客さんに着火した。強くて深くて艶があり、引きこまれる声がいい!

一瞬にして空気を作り出す彼女の歌力は、弾き語りシンガーたちの中では“最強”クラス。その実力を存分に発揮している。喉の調子は万全のようだ。

そして2曲目に「メグルキオク」。ヒグチアイの代表曲のひとつが早くも登場。イントロ聞いた瞬間に沸く会場。皆分かってる。ただ彼女の曲の中で間違いなく歌い手泣かせの難曲だろう。高速乱高下のメロディラインに、少しでも緩むと声がひっくり返ってしまう。しかし、今夜の彼女は激しいのに冷静。声を統制しつつ、バンドの音とシンクロしながら力感たっぷりに歌い上げていくから感動もひとしお。見事!


ヒグチアイはかつて、バンドライブを「挑戦」と位置づけ折々にMilkywayやO-WESTなどで演奏してきたが、音源の制作ではこれまでピアノ弾き語りにこだわっていた。それだけに、『三十万人』を初めてバンドサウンドで制作したことを「気軽に聞けてしまい、表面だけで受け取れれてしまう恐怖もある」とも語っていた。

しかし、そんなことを杞憂にしてしまうほど新譜の出来映えが素晴らしい。そして、そのアルバムの帯に大柴広巳が書いたように、「この人はCDよりライブの方が良いのです」!!事実、ご機嫌なアルバムの音より、今夜の生のバンドライブの方が楽しいといっても過言でなないパフォーマンス。3人の演奏の息がぴったりで、特に激しくもノリノリでドラムを叩いている畑さんの姿は興奮もの!それに引けを取らず、楽曲をドラマチックに仕立て上げる彼女の鍵盤も心を打ちぬく。最後まで、3人が創りだすグルーヴと熱気に会場は盛り上がり続けた。

 音符   音符   音符

<セットリスト>
1)朝に夢を託した
2)メグルキオク*
3)スニーカー
4)きらいになっていく*
5)新曲 ♪青春を忘れない~♪みたいな
6)ともだちのうた
7)かぞえうた*
8)書きかけのラブソング*
9)ホームタウン*
10)東京*
11)まぼろしのひと
12)ペーパームーン
13)黒い影*
14)ココロジェリーフィッシュ*
15)わたくしごと*
en1)永遠のウォーカー
en2)新曲 ♪Don't Trust Anyone, Over Thirty~誰も信じられないのは、自分を信じてないから♪

(*は、新アルバム『三十万人』の収録曲。全部歌ったね!)

  musiclove   musiclove   musiclove


Dr.とBa.が途中で退場し、ひとりで「ともだちのうた」をしっとりと聞かせてくれたところで、ゲストの大柴広巳くんが登場。

彼は『三十万人』のプロデューサーであり、ZOOLOGICALの首謀者であり、たいへん魅力的なシンガーソングライターだ。彼の代表曲「さよならミッドナイト」は、僕のフェイバリッドソングのひとつ。♪テーブルの上に缶ビールと~♪という歌詞のとおり、ステージに缶ビールが用意されたから、もしやこの曲を歌うのかと想ったが違った。

大柴氏がミニギター(ウクレレ?)で参戦して二人で「かぞえうた」を歌い始めると、会場が一体となって「イチ~イチ!」「ニ~ニ!」と大合唱。途中から畑さん、山崎さんもミニタンバリンンやギロを鳴らしながらステージに。「ロク!」で久しぶりに空けた缶ビール、で大柴さんがプシュッ!このためのビールだったんだね(笑)ステージ上の4人も楽しんでるし、客席のみんなもスタンディングで足がお疲れかもしれないが、みんな笑顔。あったかい時間があるライブ、いいよね。

続いてアルバムではセカイイチの岩崎慧さんとのデュエット曲「書きかけのラブソング」を、大柴くんと。本日の見せ場。大柴くんの声は岩崎さんほど甘くはないが、けだるさがいい!

   ♪♪♪   ♪♪♪   ♪♪♪


終盤、「黒い影」「ココロジェリーフィッシュ」とたたみかけるところで、会場のテンションは最高潮に。終盤なのにヒグチアイの声が力強く、安定していることといったら嬉しい驚き。歌い手としての彼女の成長がはっきりと分かる。シンガーとして成熟し、ますます花開いてきたのだろう。最後まで喉をためられないライブをかつては散見したものだ。

と書きつつも、今夜のライブが彼女の完成形なのかというと、それは大いに疑問。表現や発声の粗さが、時おり顔を出す。でもその粗さは荒さであり、アップテンポの楽曲のダイナミズムを生み出し、聞く者の心を鷲づかみするのだ。激しい曲では鍵盤を立ち弾きして、全身で歌に没入する。その勢いに、お客さんは終始ゾクゾク、ワクワクしてしまう。

つまり、彼女はまだまだ未完であり、潜在力を大いにかんじさせてくれる大器なのだ。なんて魅力的!


本編のラストは「わたくしごと」。個人的には今夜いちばん感動したのがこの曲。おんぷそれでも僕は夢を見たいから~、それでも僕は夢を見たいから~、それでも僕は夢を見たいから~おんぷ とエンドレスにたたみかけるラストは圧巻。様々な思考が頭をよぎる。ヒグチアイの未来を、自らの生き様を、夢に生きる多くの人たちの姿を。

ヒグチアイは24歳ですでに、インディーズの弾き語りアーティストのなかでは知らぬものはいないくらいのビッグネームになりつつある。そのライブを一度でも見たミュージシャンは皆、彼女の歌に打ちのめされ、ファンになる。少なくとも偉大なる「才能」の未来に期待を抱かずにはいられなくなると聞く。同じアーティストでもそうなのだ。

この1、2年で一般のお客さんにもぐいぐいと浸透しており、節目のワンマン会場としてキャパ150人程度の「月見る」ではもはや手狭だ。今夜もSOLDOUTだった。ここまで自分の力で伸し上がったアーティストの「次」は、当然メジャーデビューで然るべし。本人が「それでも僕は夢を見たいから~」と歌う姿に、僕らは大いに期待してしまうのだ。



アンコールは「永遠のウォーカー」。「さすがに昔のままでは恥ずかしいから」とオリジナルからがらっとアレンジを変えて熱唱。最近は20歳前後に出したアルバム『ストリートライフ』と『ナリカケ』の楽曲はほとんど演奏しない。まあ、確かに歌詞が若い。「大人になりたい~」とか(笑)でも「永遠の~」は今でも通じるいい曲だから、もっと演奏して欲しいのになあ。今日聞けて良かったが。

そして、本当に本当のラストに新曲。何十年も前に流行った「Don't Trust Over Thirty」なんてフレーズを持ち出してきたのには苦笑。人を信じられないのは、自分を信じてないからだよ、って歌に仕立てていたが、Over40にしてみると違和感(笑)浜田省吾を思い出したw


  音譜   音譜   音譜

『三十万人』リリースツアーファイナルワンマン、いいライブだった!ますますヒグチアイが好きになった。本心から、いつまでも歌い続けて欲しいと願う。頼むからやめないでね。

君がいつでも背負っていたもの、僕に少しだけ分けて欲しいよ。