今夜も日曜と同じ、女性鍵盤弾き語りのツーマン。だけど趣はガラッと変わった。先日のマワリー達が若い太陽のようなら、今宵は円熟の月のようなステージ。しかも、おぼろ月というより深淵で力強い漆黒の月夜だ。それもそのはず、矢野絢子と高満洋子というツーマンなのだから。
この2人がツーマンするのは実は始めてらしいというから驚き。この2人の何れかと小林未郁や紅月ノリ子、ヒナタカコなどのツーマンはこれまであった気がする。高満+小林で昨日まで一緒にツアーしていたくらい。未郁さんもイタリア演奏会から帰国したと思ったら、すぐまたツアーに出るなど苦労様。おっと話がよたってるか。
そんな訳で、今夜は久し振りの矢野絢子を堪能しに恵比寿へ。鍵盤女性シンガーの中で、彼女は一方の頂点にいると個人的には高く、高く評価している存在。彼女の歌が聞けるのを心待ちしていた。
といいつつ、そんなに彼女のライブは回数見ていない。何故なら、彼女はある意味、すでに高い水準で完成しているのだ。最近の僕は、未完のアーティストの成長過程を見るのが楽しみ。矢野絢子は半期に一度くらいが、調度よい。そして今夜も、期待に違わぬ素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
前半が矢野絢子、後半は高満洋子だったが、絢子さんは後半も半分位出てきて、高満さんのアコーディオン伴奏やピアノ伴奏、コーラスなどしてたから、矢野絢子ファンとしては彼女の多様な面を見れた美味しいライブだった。そして、改めて矢野絢子の才能の素晴らしさを再認識した。
まずは前半のセットリスト。ちょっとぼーっと見入ってしまい、曲名よく聞いてなかったので間違いあると思うが、こんな感じ
1)時のうた(


2)がんぜないうた(中原中也の詩に曲をつけて


3)千年酒
4)てろてろ
5)おけら
6)らせん階段
7)2つのプレゼント
8)?(


9)ブーツ
10)かなしみと呼ばれる人生の優しさよ
11)吐息
11月まで毎月ミニアルバムを発売するというハードルの高いチャレンジを自ら課し、1年で12枚を発売し終えたばかりの彼女。長く歌い続けているだけあり、またソングライターとしての高い才能もあり、何れも高いクオリティー。そんな厚みをましたレパートリーの中からの11曲。とても中身の濃いライブだった。
その中でも、個人的には、初めて彼女のライブを見たときにガツーンとノックアウトされたこの2曲、「ブーツ」と「かなしみと呼ばれる人生の優しさよ」に、やはり今夜も打ちのめされた。前者はフォーク、後者はジャズ風の曲調でピアノの演奏技量や表現力はそれは凄いのだが、何より魂からほとばしる彼女の歌力が卓越なのだ。
彼女の入魂の歌詞には、激情と社会への冷めた視線がまじりあい、聞いていると身がすくむ。それを力強い歌声でぶつけられると、無意識に目をつぶってやり過ごしている重い現実や弱い心を、まざまざと目前に突きつけられる。
でも、生きていく上で時折、振り返り、こうして目を向けることは必要なのだ。彼女の歌を聞いた後のカタルシスは、魂が浄化した現れなのかもしれない。
後半の高満洋子さん、最初の数曲はメドレーのように繋ぎ、彼女がピアノ弾き語り、矢野絢子がアコーディオンで合いの手を入れていく。歌ったのはあの高満語の曲たち。スキャットみたいなもので、言葉に意味はなく、音の響きだけで喜怒哀楽を表現して心を揺さぶる。アコーディオンを哀愁溢れる音色に鳴かせる演奏が絶妙。さすが矢野絢子。
この後、高満洋子が矢野絢子の「小径」と「笑顔」をカバー。伴奏は矢野絢子本人

ここからは高満洋子の1人舞台。「とこしえの」「寒空」「箱形浮遊体」「守小唄」とラストにかけて代表曲で盛り上げ、最後は定番の「火を紡ぐ」。この「火を紡ぐ」好きだなあ。まさに名曲だ。
「箱形~」の世界観は、どこか小林未郁に通じるものがある。この2人を組み合わせてツアーを仕組んだ人もきっと、そんな感触から着想したのではないか。あるいは、この曲は未郁さん作?
そしてアンコールで、再び矢野絢子が登場してピアノにつき、2人で「ハレルヤ」。矢野絢子のハレルヤのコーラスが即興的ながら絶妙

矢野絢子。ここまで音楽センスの高さを感じさせてくれる鍵盤系アーティストは、それぞれ持ち味が全く違うけど、僕の中では、いいくぼさおりとSHUUBIぐらいしかいない。彼女の音楽と出会えた幸せを、今夜は噛み締めている。