10/6/22 チェーホフ国際舞台芸術祭@両国シアター× | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

最近、ライブが多いので、時には演劇を。かつて毎日でも演劇が見たいと下北沢に移り住んだこともあったなあ(遠い目)。最近はライブばかり。どうも嵌まり性で困ったもんだ。

でも、演劇は今でも大好き。きっかけがあれば喜んで見に行く。今日はそんなきっかけと、先日の池袋・鈴ん小屋で出会ったので、久し振りに両国へ。いつだったか猪や兎や狸を食べに来て以来だなあ。有名な「ももんじや」という、仏風にいえばジビエ料理屋があってね。でも、鍋。しかも、狸汁は生臭くて食べれたものではなかったが。

もしくは相撲見に行って以来か。いずれにしろ10年以上前の事だ。そして、相撲といえば野球賭博。どうなるんだ……という話は本題外れるので置いておこう。

今回の両国参りのきっかけは、小林未郁さん。彼女が舞台出るというので、見田村千晴@七階は諦めて黄色い中央線で城東へ。

両国シアター×の舞台芸術祭は隔年で、テーマを決め沢山の応募から選ばれた多数の演劇とダンスの小作品と招待作品などを1カ月間程度かけて連日開催する、なかなか充実した企画だ。

今年はチェーホフ生誕150年記念ということで、この偉大なロシアの劇作家の作品を世界中の実力派劇団を招いて上演してきたほか、後半戦は一般応募から選ばれたチェーホフをモチーフにした24作品を毎日上演している。

22日の公演は、そうして選ばれた3作品が披露された。三河弁版「結婚申しこみ」、「桜の園」のフィールスの心象を表現したダンス、男性1人による「たわむれ」から着想した創作ダンスだ。

最初の作品はベテラン俳優によるコメディ劇。三河弁は良かったが、役柄のデフォルメが丁寧でなく、なぜ?がたくさん。そのため、笑える劇なのに痛々しい場面が多かった。

最後の作品は、素晴らしい身体の動きで反復、反芻の迷宮へ迷い込んでいく男をシンボリックな動きで描きあげていた。

さて、小林未郁が音楽を手掛け、舞台上で演奏しながら、剣舞の男性と、ダンスの女性が繰り広げる創作的な動きと化学反応していくという2番手の作品だ。

ビジュアルでも、音楽でも3グループの中では抜き出た感じ。静寂の中から静かに動き出す剣舞は意表をつき、ダンスも鍛えられた体の動きが美しかった。

その静寂を侵食し、独特の空間に色を添えたのがキーボードと小林の絶妙な声の響き。森羅万象の栄枯盛衰を、ダンスと歌で描く。カギは悠久の時の流れを、どう身体的な動きで表現するか。

桜が散る動きも良かったが、真剣を振り回す動きが、権力や暴力で周囲を威嚇する傲りに見え、同時に剣を振り回す度に舞台上に溢れていた桜の木がバッサバッサと斬り倒されるようでシンボリック。

最後は剣と鞘をぐるぐる回すシーンがあり、講評したロシアの演出家は主人公がかつて競馬の輸出業で盛んだった過去の回想に見えたと語っていた。僕には破滅へと時計の針がグイグイ進んでいくという表現かと思った。

ダンスとの同一舞台での競演だったが、刀を抜いて踊る洗練された剣舞の所作は美しかった。身体表現の世界では欧米の芸術水準は確かに高いが、和にも良いものはまだまだ沢山ある。

ただ、何か物足りなさが残ったのは否めない。1つは尺の短さ。まだ十分に描ききっていない所で終わってしまったのでは。美しかっただけに、まだ全く観客は飽きてなかった。もっと濃密なダンスによる語りを見たかった。小説になる内容なのに、詩で済ませてしまったみたいな。

もう1つは明確なメッセージの不在。無論、言葉のないダンスは、どう捉えるか見る側の自由。ただ、そうはいっても肉体の動きを使った「表現」手段だ。考えた振り付けだったろうが、その後のトークセッションで意図を尋ねられ、説得力ある言葉で説明できてなかったのが残念。

小林未郁に関しては、やはり才能を感じた。和の創作は合っている。桜の園の世界観も、彼女の歌の歌詞を聞いて理解できた、というお客さんもいた。

個人的な好みでは、もう少し地声を減らし、声楽的な声で唸った方がこの舞台により効果的だったかと思う。剣舞とダンスの背後に、素の小林未郁の存在が地声に出てしまい、少し居心地悪かった。演奏もまた、この創作の重要な要素だっただけにね。音楽ライブなら逆にどんどん自身を前に晒してよいのだけどね。

演劇見て、その後の演出家と出演者のトークセッションを聞いて、つくづく感じたのは、自身の感受性の衰え。モノを感じる心を、高感度に保つことって、右脳的にも左脳的にも、どういう環境に身を置くかが重要。売上高や人間関係に朝から晩までキュウキュウとしているサラリーマンではいかんなあ…