10/2/25 新妻由佳子 w/ポンタ @南青山マンダラ | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

「伊太地山伝兵衛」
という歌手をご存知でしょうか。

とても渋く格好いいアーティストです。男臭いけどオシャレ。子供のように無邪気だけど、アダルト。素朴だけど知的。あんなオッサンになりたい、と憧れてしまう存在。ブルースやジャズテイストの歌がまた燻し銀のように熟した大人の魅力たっぷりなのですグッド!

年齢は団塊世代より少し下か。慶應大出てバリバリの銀行マンをやってたのに、30代半ばでそんな生活投げ出し、音楽にズッポリ。全国のクラブやバーなど、酒の飲める店中心に年100ヵ所以上、ライブで回る旅人です。どこかで聞いて虜になった人は多いはず。今は九州を縦断中かな。

バーボンやズブロッカ舐めながら、耳傾けるのには最高にブルージーなミュージシャン。大人とはかくありたい、という存在です。女だったら惚れてしまうね。

最近、聞く機会が無いのですが、今夜は無性に彼の歌声を聞きたいなあと、そんな余韻を残してくれた新妻由佳子さんのライブでした。(長い前振りだ、笑)

彼女もまた、格好いい大人の音楽空間を、春一番吹き抜ける南青山の夜に作り出してくれました。

新妻さんの音楽のジャンルは、彼女自身の言葉を借りれば「ジャズとポップの間をふらふら」。それにR&Bと昭和歌謡曲をミックスして、彼女色の味付けしたような多彩な曲を十数曲+アンコール2曲。素敵なワンマン、堪能しました。ジャズ風にムーディーに歌ったかと思えば、フレンチポップな曲で明るく、そして懐かしい歌謡曲調メロディでノスタルディックに。

カバー2曲以外は全てオリジナル。そのカバーの1曲はマリリン・モンローというナイスな選曲。健全な色気と甘ったるさが彼女らしさを、よく出しているのです。

また、今夜のもう一方の主役が素晴らしかった。そう、サポートの3人の演奏です。Dr.は言わずとしれた日本一のドラマー、村上ポンタ秀一。オン・ピアノはジャズピアニストでEgo-Wrappin'のサポートもしていた幡谷哲也。そして最年少29歳のウッドベース、中林薫平。

この3人が、音で会話しながら絶妙な緊張感や幸福感、インプロヴィって、時にグルーヴを醸し出して。凄い高レベルでお互いを引き出し合い、協調し、素晴らしくジャジーな演奏を聞かせてくれました。3人の演奏だけでも、金払う価値十分。演奏だけで、思わず顔もほころびます。

実は冒頭の伊太地山伝兵衛さんも、ポンタさんと組みツアーをしており、その印象もありました。それでも、新妻さんと伝兵衛さんが志向している音楽が近いことが、ライブ後に伝兵衛さんを連想した最大の要因でしょう。

新妻さんは今月32歳になったばかり。こんな豪華サポート陣の前でも堂々としたもの。見事にトリオを引っ張り、自分のステージを作り出していました。さて、このブログでは通常、クラシックやジャズのライブ評は書いてないのですが、あえてジャズ系の新妻さんに触れたくなった理由は、その年の割に(それとも年相応に?)大人らしいという点で、考察したいことがあったからです。

いわゆるポップ系のライブシーンを牽引する女性シンガー達。アラサー世代が実力充実しており、その層も分厚さを感じます。だが、彼女たちは「女子」なのに対し、新妻さんら同世代のジャズ歌手は「女」。そんな違いが際立つのです。

とにかくトータルに大人なのです。勿論、それがジャズシンガーの文法で、お子様が場違いな文化的、歴史的な風土であることは大前提にあります。夜のジャズバーやクラブに似合うボーカルが求められ、その世界に自ら入っていった女性達が、それらしい振る舞いを身に付けていくのは当然でしょう。ただそれだけではない気がします。

もち論、ファッションは違います。この日の新妻さんは、前半は赤と黒の柄が素敵なGUCCIかEMILIO PUCCIのようなワンピースに、アクセで大人の色気を。後半は黒のミニに黒のタンクトップ、ソフト帽を効かせてコケティッシュな感じ。顔立ちをクッキリさせるメイクに、深紅のマニキュアが似合っていました。一方、天窓やノマドに出るアーティストには、ナチュラルメークで、ダメージドジーンズにTシャツやカットソーが似合います。おしゃれ過ぎる格好は逆に場違いです。

外見だけではありません。歌い方もまったく違ってます。POPなら素直なかわいい声で歌ってもOKで(大塚愛とかいきものがかり、aikoみたいに)、時に気持ちよく熱唱しちゃいましょう。ノリノリで手拍子求めても、それが格好良ければ決まります。ところが、ジャズでそんな歌い方したら雰囲気ぶち壊しです。抑えて、感情をコントロールして、声にも演出が求められます。その中で抑揚や声色、声のかすれ方、拍のとり方、などなど細かい表現力で「うまいなあ」とうならされます。そもそも曲調からして違います。

何より客層が違います。お客さんの年齢層やファッションなどが、歌い手のあり方を決めるのは間違いないでしょう。

これらを総合すると、おのずと「女子」と「女」の違いが生まれるでしょう。すると不思議な事に、歌い手の生き方までも変わる気がします。POPの女性歌手は「女」になるより格好よい「女子」を志向した生き方を、ジャズ歌手は「女」として魅力を高める個性を磨くようになる。これって、医者になると医者らしい振る舞いを、公務員になれば公務員らしい表情を身につけることと同じですね。

つまり、「生業(なりわい)が顔を作る」

生き方がそこに現れてくる訳です。それだけに、普段、どんな生き方をしているかは、ステージの上での歌とは別物と思われますが、アーティストにとって、実はとても重要なのではないでしょうか。荒れた生活してたり、だらしなく生きている歌手は、ステージでもそういう空気を発散してる。もちろん、わざと退廃的な雰囲気を作る場合も、若者のロックバンドなどでは見られますが、それでは多くの健全に生きている人達には受け入れられないのではないでしょうか。

いや、これは全く人ごとではありません。自分もサラリーマンですが、会社の中でできる人はやはり生き方の心構えから違いますね。「人の振り見て我が振り直せ」ですね。