矢野絢子さんは高知在住で、向こうに活動のベースを置いているため、東京には年1-2回の演奏ツアーにやってくる。それだけに貴重な機会なのだ。昨秋のツアーで、横浜Thumb's Upでの演奏が感動的だったから、今回もいずれかのライブを聞きたいと思っていたのだが、水曜の代官山晴れ豆、19日(金)の横浜BBストリート、21日(日)の青山「月見ル君想フ」でのワンマン2ステージ………行けません

しかし、昨夜は終電間際まで仕事で、会社で歯噛みしていました。渋谷めぐみも見られなかった。残念。という訳で、今夜こそ。
ギターと鍵盤の選択肢がありましたが、矢野絢子さんのような素晴らしい鍵盤女性シンガーとの出会いを期待して渋谷七階の「FlowerFloor」へ。出演者はライブで見たことない人ばかりで不安もあるが、噂に聞く「森ゆに」さんに期待して。
さて、オープニングアクトのさんが終わったタイミングで中へ。オープニングを見逃したのは惜しかった。一番タイプだったかもしれない、と後から思った。というのは、体調不良の上に襲いくる睡魔と、飢餓との戦いで集中力がなかった事もあるが、出演の4組とも自分と波長が会わなかったのだ。
出演順は以下
AmeRibbon
シーナアキコ
森ゆに
東川亜希子
曲単位では、東川さんのラス前のジェーンバーキンのように始まる曲や、森ゆにさんの後半の素直な情景切り取ったような曲が良かった。
ただトータルではいずれのアーティストにも感銘せず。その原因の1つは聞き手側(自分)のコンディションの問題が間違いなくあったが、もう1つ外部的な要因として、楽器もあったのではないか。つまり、グランドピアノを鳴らし過ぎて、歌とのバランスが崩れていた気がするのだ。
どのアーティストも幼いころからピアノを習っていた達者な鍵盤弾き。(シーナさんのピアノは伴奏の域内だったが)。そりゃ、グランドを前にしたら鳴らしたくなるものさ。気持ちよいもんね。高い技量がある皆さんだけに、指がパラパラ、バ、バーンともうベートーベンしちゃう。
ところが、ボーカルはいつも通り。しかも、揃って声量では勝負しない歌い手ばかり。マイクに拾ってもらって囁きや、かわいらしい声で表現するタイプ。最初のAme:Ribbonのボーカルはちょっと違って、鼻の通りが良くないのか、口先で張り上げるタイプで声が通らない。で、やはりグランドに負けていた。
まあ、七階は座った席によって音のバランスが著しく異なるから、前の方だった僕の席からそう聞こえただけかもしれない。一番良い音で聞こえるのが、音が収束するカウンター席の辺りで、PAもそこにいるのでさほど気にしていなかったのかもしれない。ところが、グランドピアノはアンプラグでも十分に遠方まで音が通ってしまうんですね。だから、前方席はスピーカーなど関係なく、よーく聞こえてくるのです。
さて、その結果どうなったか。
ボーカルとピアノが別々の女性デュオ、Ame:Ribbonの場合、ピアノの小松原沙織がすごく強くエッジの効いた演奏で、クラシック風の技量で弾きまくるため、本人のシリアスで鋭い表情と相まってど迫力。一方のボーカルの渡邊奈緒は、声質こそ太いがかすれ気味で、鼻腔を通っていない、響かない声。ピアノに負けてしまうどころか、ピアノが王様・ボーカルが奴隷みたい。バランスが悪い。しかも、曲が前衛的というか、オルタナティブというか、やさぐれた緊張感があるのだが、それが渡邊奈緒の資質に合っていない感じ。詩は自分で書いているらしいのに不思議。
シーナアキコの場合。ドラム+ベースの3ピース。
彼女は本当に歌が矢野顕子そっくり。やはり、ピアノに負けてしまう。曲調も声に合ったかわいらしいものが多いのだが、それでいて顔や雰囲気は松雪泰子。ちょっとシャープで影を感じる美人。どうもアンバランス。
森ゆに。
4組の中で一番、グランドピアノがしっくりきた。相田翔子似のお嬢様風。クラシックの素養たっぷりの端正な演奏。ラス前の曲のイントロはまるでカルメン。声も素直で、歌の世界もきれいな情景を切り取ったよう。なのに、感じるこの邪な感覚。女はそんなに単純じゃないのよ、ときれいな表情の裏で確信犯的に仕込まれる毒。4曲目に歌った「バラの咲く庭で」とかきれいな曲なのですが、棘がある。「一日の終わりに死の影が」とかさりげなく、きれいに歌っている。いいねえ。バロックのおどろおどろしい美しさのように、グランドピアノの音と彼女の醸し出す空気がシンクロしている。面白いアーティスト。ぜひ、自分のコンディッションが良い時に、じっくり聞いてみたい。
東川亜希子。
「本格ピアノ&エレクトロサウンド」とうたっているだけあり、サポートにシンセサイザーとドラムという変わった構成。しかし、うーん。不思議、というか狙いがよく分からん。まあ、本日は「しっとりの日」だったそうなので、ロック調の日の演奏を聴けば面白いのかもしれないが…シンセの田中君の普通の明るい中小企業のサラリーマン風のノリと、鳩胸気味にスネアするドラム君という不協和な取り合わせ。このチームだからこその魅力があるのだろうか。最後まで分からなかった。演奏した曲の中で「のれる曲を」と始めた曲もあまりのれず、田中君ひとりがノリノリでシンセいじっていた。昔のELOか?
7th Floor、なかなか、変わったブッキングだな。本日の鍵盤女性シンガーに矢野絢子や伊藤サチコ、いいくぼさおり、谷口深雪、柊奈緒みたいな感動はありませんでした。