日英翻訳を30年もやっていると訳しにくい日本語が出てくると、「あっ、それは訳しにくい日本語なの」と瞬間的にわかるようになります。しかし、わかっても未だに「これぞ、この日本語の定訳と言って良い」というのはあまりないというのが現実です。
ただし、定訳に近いものを発見したことも僅かですが、あります。お役人が好きな言葉で「策定する」という言葉があります。以前はestablishではニュアンスが違う、さりとてcreateでもないといつも苦労していましたが、formulateを見つけてからは、これが出て来たら「待ってました」とformulateと英訳します。
「地域に密着する」等の「密着する」がやはり難しかったですが、ネーティブスピーカーと議論しているうちにfriendlyを発見し、be friendly to the communityとかするとピッタシだというのがわかりました。
それから「横断的に」が難しかったですが、across departmentsなどを使えば十分に意味が伝わるのがわかりました。
現在はネット上に良い辞書があり、検索サイトのGoogleもあったりして昔から比べると随分と楽になったと思います。
ネットのない時代は何冊もの高額の辞書や事典が頼りで、それでもわからないと図書館に行って調べたものです。ネットどころかパソコンがなかった時代はタイプライターに入力して日英翻訳原稿を作成しました。
ここで読者に質問です。タイプライターで入力ミスをするとどうやって訂正したでしょうか。
答えは砂消しゴムで消して、入力し直したものです。これはもう大変です。ですから、いかに入力ミスなしに打つかが重要でしたね。英日の場合は原稿用紙に書いていました。
話は飛んでしまいましたが、ネット全盛の現在でも、調べても辞書を引いても的確な英語が出て来ない最悪の(?)日本語は何か、それは「徹底する」です。この言葉は日本人が大好きな言葉で翻訳者泣かせです。
ちなみに辞書を引いてみましょうか。初めにWeblioです。Be thoroughとあり、副詞はthoroughlyですが、このままではほとんど使えません。次に英辞郎です。こちらもBecome thoroughです。これも使えませんね。つまり「徹底する」は文脈に応じて自分で工夫して英訳するしかありません。
これで終わると怒られそうですから、1つ例題に取り組んでみましょうか。
「当社は新しい就業規則を作成したので、それを周知徹底して欲しい」これを英訳するとAs our company has established a new work rule, we would like all the departments to fully understand this rule. のように「全ての部署」(all the departments) を入れれば容易に訳せます。この「全ての部署」が不適切であれば、「関係者」ならrelated peopleとか related partiesとすれば良いわけですね。
今度は「管理は一元的」あるいは「一元管理」です。これはunified managementかcomprehensive managementで通じますが、文脈によって要注意です。
それから良く出てきますが、意外と訳せないのが、「総合力」です。comprehensive powerだとネーティブはわからないと言ってきます。
Collective strengthsのほうが近いのではないでしょうか。
上の二つと比べると難易度は低くなりますが、「確実に」というのもけっこう気を使って訳さないと妙な英語になってしまいます。副詞として訳すのではなく、Be sure to..., Make sure to....としたほうが良い場合もあります。あまりうまい訳とは言えませんが、どうしても適語が見つからない時、私はwithout failを使う時もあります。
「見える化」はどうするか、辞書にはvisualization, visibility
この「~する化」訳しにくいと思われがちですが、これは「見えるようにする」と言葉を置き換えてから訳すと意外と簡単です。
何でもそうですが、表面的な日本語に捉われないで、その意味をズバリ英訳してしまうと割り切るとけっこう楽になります。もっともこれは簡単そうで難しいかも知れません。