てんつくピーヒャラ | 湧flow

てんつくピーヒャラ

私と舞台の間に他の観客の背中はなく、
 数歩踏み出せば、確実に手が届きそうな役者までの距離は、わずか2~3m。
 目の前でダイナミックにストーリーが展開され、同じ時間と空気を共有しているという
 舞台でなければ味わえない醍醐味を、ぞんぶんに味わってきました。

数々の賞を受賞してきた
 こまつ座公演『太鼓たたいて笛ふいて』
 は、今回が再々演なのだそうです。

ずいぶん前にチケットを入手したので、席も確認していなかったのですが、
会場に着いて座席番号を見ながら席を探すと、なんと一番前の中央あたり。
 こまつ座の作品には、音楽を生の楽器でやるものがいくつかありますが、
 今回は最前列の中数席を抜いて、ピアノが設置されています。

開演時間、ピアニストが出てきました。
   近っ! まさに隣です。
 と思う間に幕が開き、登場人物全員が登場。
   わぁ、どうしよう! 大竹しのぶさんが…、
   こんなにも、こんなにも近い! 

舞台全体を見渡すのには不向きですが、
   表情の変化、 こめかみを流れる汗、 そして ダイレクトに伝わってくる声
 この迫力は、この席でなければ味わえないものだと実感しました。

「放浪記」で名を馳せ、
 戦争を鼓舞する小説を書き、
 従軍記者として東南アジアの最前線に赴き、
 戦争の陰と背景を直に味わい、
帰国後、反戦をテーマにした小説を書いた林芙美子の半生がこの作品のテーマです。

大竹しのぶさん演じる芙美子は、
  率直すぎるほどの強烈なキャラクターの内に、
  人としてのやさしさや純粋さを感じさせる女性
でした。
主役が素晴らしいのはもちろん、
 こまつ座作品のすごいところは、出てくるすべての役柄の魅力的なこと。
井上ひさしさんの脚本、そして演出、役者さん
それらが生み出す珠玉の作品を観た後は、毎回大きな満足感を得て劇場を出ることができます。

井上ひさしさんの作品には、反戦平和のメッセージが込められていますが、
それが薄っぺらにならないのは、
 反対勢力側も含む人間や物事の多面性が、
ユーモアも交えながらきちんと描かれていること。
時々、その一言に万感の想いがこもっているセリフに出会い、
ずんっと胸に響きます。

このぼーっとした幸せな感じ、
しばらくは浸っていられそう…演劇