己の置きどころ | 湧flow

己の置きどころ

ワイエスを観ました。

前回のBunkamuraでの展覧会はせいぜい7~8年前だと思っていたら、
実は13年も前の事だと知り、時間感覚の変化と歳を重ねた事を認識した次第∑(-x-;)。
ワイエスも91歳だそうで、館内で流れていたインタビュー映像を見て、
その矍鑠たる様子に敬服しました。

今回の特徴は、最終作品に至るまでのスケッチやエスキスなどが展示してあること。
ワイエスの作品は、細密に描き込まれ、その完成度の高さも絵の品を構成する一つの要素ですが、
まだラフなスケッチやエスキスには、画家本人の感情やこだわりもちらちら見え、
最終的な作品との比較は、とても興味深いものでした。

また、福島美術館所蔵の作品には、懐かしさを覚えました。
これらの作品に会ったのは数年前、福島に出張した時のこと。
帰りの電車までに少し時間が取れたので大急ぎで美術館に立ち寄り、
入り口でワイエス作品の展示場所を聞くと、他の展示には脇目も振らず、
まっすぐ作品をめざし、許される時間を作品と向き合って過ごしました。

特に印象に残ったのは、入り口近くの自画像脇の説明書き。
  I wish I could paint without me existing
  ------that just my hand were there.
  できることなら私は自分の存在を消してしまって絵を描きたい。
  ---あるのは私の手だけ、という具合に。
また、図録にあった次の言葉。
「森の中や、野を一人で散策する時、私は自分の事をすっかり忘れてしまう。…」


いつの間にか自然に融け、自分がなくなってしまったような感覚。
それは喪失感ではなく、むしろ静かに満ち足りたようなもの。
私もほんの少しだけ、学生時代に行った白馬での風景画実習で感じたことがあります。
ワイエスは、己を自然の中に解き放ち、融け込ませ、
ずっとずっと描き続けてきたのかもしれません霧