雨 1/3 | iM@Sとかなんとか(仮)

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アイドルマスターSSとか駄文をのっけてます。←とか書いてても、ちっとも更新していないので「サイドストーリー」と言うタイトルはは取り下げました。最近のメイン記事はニコマスの紹介記事が9割を締めています。

※ 完全創作ではありません。


 ザン、ザザン、ザン……。
 アーケードを雨音が不規則なリズムで叩いている。
 ついさっきまでは晴れていたのに、急に曇りだしたかと思うと見る間に辺りは暗くなった。朝の天気予報で夕立があることは知っていたのに傘は持ってきていなかった私は、手近のアーケードに駆け込んだ。途端、雨が降り出したと言うわけだ。
 庇は2mほどあるものの、時折吹き込む強い風雨に煽られた雨雫が足下を濡らし、自然、私の靴も濡れてしまう。ショートブーツなので濡れたところで被害はないのだけど、買ったばかりで汚してしまうのもなんだかもの悲しい。それを避けるために私は、なるべく庇の真ん中の方に移動することにした。
 矢先、駆け込む人影が一つ。昼日中にスーツを着ているところを見ると営業マンだろうか。歳は、そう、私と変わらない位かな。20代半ば。
 それにしても、スーツ姿を見ると営業マンと思ってしまうのも随分と短絡な話だな。私は心の中でこっそり自嘲した。自分のことしか知らない私は、こういった世間的に常識で当たり前のことが解らない。解らないから、こんな他愛もないことを素朴に疑問を懐いてしまう。
 無意識だったけど、マジマジと眺めてしまっていたようだ。私の視線に気がついたその人と私は、自然と会釈した。そうなると黙っていることに居心地の悪さを感じてしまうのは職業病。話しかけようと口を開きかけた矢先、
「コンビニ、この辺りにないかなあ」
「コンビニですか?」
「傘、売ってるでしょ」
「……急いでるんですか?」
「そうでもないけど」
「だったら、少し待ってみませんか? 夕立ですから、すぐに止みますよ」
「……そうだね。そうしよう」
 そう言うと、彼は微笑んだ。

 それから15分ほどで雨は止んだ。そのあいだ、私たちは他愛もない話をした。彼が営業マンではないこととか、この近くに美味しい居酒屋があるとか、そんなことを。
「止みましたね」
「そうだね」
「……行かなきゃ」
「うん。ああ、メルアド聞いていい?」
「え?」
「ダメかな? また会いたいんだ」
 その時は私も軽い気持ちだった。
「いいよ」
 あとで連絡すると言い置くと、彼は足早にアーケードを後にした。
「実は急いでいたのかな?」
 彼とは反対の方向に足を向けながら私は、そう独りごちた。

 メールが待ち遠しいな。
 寂しさが心地よく嬉しかった。

”近くまで来ているんだけど、会えない?”
 午後6時。その日最後のお客さんを見送った後、彼からメールが届いていた。
 あれから一週間が過ぎた。メールはその日のウチにやってきたけど、会う約束を取り付けるメールはこれが初めてだ。
”いいよ”
 私は短い返事と一緒に、場所を細かに指定した。すぐに彼から返事。最初に会ったとき話していた居酒屋に行かないか、と来たが、私は適当に言葉を濁した。それには理由がある。お客さんとのニアミスを避けるためだ。そう、私は彼に自分の職業を明かすつもりはない。どうせ行きずりの仲なのだ。夢はきれいなままにしておきたい。

 それから、都心にある繁華街の居酒屋に行った。お酒が入ったこともあり、彼は前よりも陽気でお喋りだった。私も久しぶりのお酒に、テンションは普段の3割り増しくらいにはなっていたと思う。

 遅くなるからいいと言ったけど、彼は駅まで送ると頑なに主張した。それほど飲んではいなかったけど、それなりに酔っていたと思う。駅まで歩く道すがら、私は無意識に、ほんとうに無意識に、彼の手を握っていた。彼もまったく自然に受け入れてくれた。最終電車が近かったけど、私たちは一歩一歩、繋いだ手のひらの温もりを確かめるように、ゆっくりと、ゆっくりと歩いた。

 電車が発車するまでの間、彼は何かを言いたげにしていた。
 私も彼の一言を待っていた。
「……楽しかった」
「わたしも……」
「……」
「……」
「なんか、おかしいよな」
「なにが?」
「まるで中学生みたいだろ、オレ」
「そお?」
「……ま、いいや」
「変なの」
「……」
「……」
 発車を告げるアナウンスが聞こえる。
「電話するよ」
「うん」
「じゃあ」
「じゃあね」
 ガタン。扉が閉まった。
 不意に、息が詰まるような苦しさを感じた。
 ホームを滑り出した電車から私は、歩き去る彼の後ろ姿を見送りながら、この胸の痛みについて考えていた。

 その日のウチに体を求められる覚悟と期待を、彼は見事に裏切ってくれた。翌日、メールに返事しなかった理由は、そんな些細なことだった。うん、ちょっと不機嫌。
 第一印象は、遊び慣れた感じだった。次に会ったときには、そう、ほんとうにまるで中学生や高校生のように自信なさげな感じだった。どっちがほんとうの彼なのだろうか。おそらく後者だろう。それだったら、そういう付き合い方をしてやるか。焦らして焦らして、時々甘えて、こっちの制御下に置いて遊ぶのも悪くない。
 もちろん、そんな私の浅はかな奸計は、ものの見事に砕かれることになるのだけど。

「よっ」
 仕事帰りの私の背中に不意に彼は声をかけてきた。
「近くまで来てたんだ。まさかとは思ったけど、やっぱり君だったか」
 私は狼狽えた。とっさに周囲を見廻す。大丈夫、お客さんやお店の女の子達は居ない。
「ああ、し、仕事?」
「うん。ほら、この間言っていた、イベントの」
「そう、決まったんだ。よかったね」
「ありがとう。それより、腹減ってない? 今から晩飯とかどう?」
「そ、そうね。ど、何処に行こうか」
「この間行った処とかはどう?」
 今、駅に近付くのはまずいと思ったわたしは、
「ね、よかったら、わたしの家に来ない?」
「いいの? 押しかけて」
「一人だから。遠慮しないで。こう見えて、結構、料理は得意なの」
「そいつは楽しみだ」

 視点が定まらず、つっかえがちに話す私は相当に挙動不審だったはずなんだけど、彼は意に介することはなかった。
 そう言えば、なぜ私は彼にお店のこと、仕事のことを知られるのを避けているのだろう。この時、そのことを初めて疑問に思ったのだけど、答なんてすぐに見つかった。それが見えない振りをしていただけだったんだ。仕事は好きだし誇りも持っているけど、やっぱりどこかで私は、普通じゃない自分を醜く汚れていると思っていたんだ。
 違うか。彼がそう考えると勝手に思いこんでいたんだ。と言うことは、これは最初から、私の中では遊びではなかったんだろう。

 ともかく、そんな形で私たちは初めての朝を迎え、恋人になった。

 付き合い始めてから2週間ほど。彼は次第に私の家に居着くようになった。特に仕事の関係で直行が多いことから、便利がいいという理由でよく寝泊まりをした。私もそれに抵抗はなく、むしろ彼の世話を焼けることが単純に嬉しくて、彼が気兼ねなく泊まれるよう、また、気兼ねなく去れるよう努めた。
 そうやって、日を追うごとにしあわせは増していったけど、その分だけ、仕事のことを黙っていることが辛くなってきた。
 たまたま出退勤時間を朝から夕方にしていたので、私はOLをしていることになっている。仕事の内容は、お客さんに聞いたりお店の女の子から時折漏れ聞こえる会話などを適当にアレンジして話していた。完璧に演じきっている自信はあった。でも、それにだって限界はある。なにより彼に嘘をついている。それが私の心に棘となって刺さっていた。

 ある晩、家で夕食をすました後、二人でいつものようにお酒を飲んだ。その日はいつもよりたくさん飲んだせいか、私はかなり酔っていた。
 それが勢いになったんだろう。私は、隠していた仕事のことを彼に打ち明けた。


雨 2/3