kndleで創元推理文庫版の江戸川乱歩作品の電子書籍がすべて210円となっていました。全20巻+創元推理文庫版日本探偵小説全集2巻に収録された作品も三分冊されて出版されていたので、全作品をダウンロードしました。

 

 江戸川乱歩作品はすでに講談社推理文庫版と光文社全集版を持っているのでこれで3種類目(どんなにマニアだ!)それぞれ特徴があるので、捨てることができないシリーズです。


 講談社推理文庫版は小説、少年もの、評論とジャンル別に分類され、全作品が網羅されています。それだけではなく、平井太郎時代のミステリーに関する草稿ノートの影印本(奇譚)や、年譜、さらには別冊として貼り混ぜ年譜の影印本まで、と現在乱歩を研究する上で必要とされるテキストはすべてそろっているのでは、と思われる全集となっています。



このシリーズ、のちに光文社文庫で全集が出たときに、重複するものはすべて処分しようと思ったのです。ところが、上京したとき、ふとのぞいた古本屋で全巻そろい50万円で売られているのを見て、これはブックオフに売るのはもったいない、ということで今、私の書棚の一角を占めています。


 光文社文庫版全集は少年ものも含めた全小説を年代順に並べ、後半5巻は代表的な評論を収録したもの。現在も書店で買える唯一の作品集です。

 完全に年代順に並べられているので、エログロの極みのような作品と少年探偵団ものが同じ巻に載っていたりします。

 ほかの作品は処分してもこれだけは処分してはいけない、というものがあります。その作品は「猟奇の果て」が収録されている「孤島の鬼」の巻。

 前半の雰囲気は乱歩の真骨頂、といえる独特な雰囲気を醸しながら、後半は単なる捕物帖となってしまい、完全な竜頭蛇尾となってしまった「猟奇の果て」、この作品のもう一つの解決、ということで潮出版版の結末が載っているのです。はっきり言ってこちらの方が明らかにいい。この結末だったらほかの初期の作品群に全く劣らない名作になっているのに。

 雑誌掲載時が竜頭蛇尾の方なので、今でもこちらばかりが出回っているけれども、手塚治虫や横溝正史や井伏鱒二のように乱歩も自分の作品を何度も書き直す、ということをする作家だったら、間違いなくもう一つの方が流布されていたでしょう。

 現在、こちらも本棚の一角を占めています。



 


そして、今回の創元推理文庫版。同じ作家の作品を3種類、というのはいくら好きな作家でも、ということで買わなかったのですが、こちらもかなり特徴的な編集でした。

 創元推理文庫では「二銭銅貨」など初期の代表作と「陰獣」「化人幻戯」を収録した日本探偵小説全集(第2巻「江戸川乱歩集」)があり、ここに収録されていない作品を順次出版する、という形をとったため、巻の順番は必ずしも一貫していません。

 このシリーズで特徴的なことは2つ。日本探偵小説全集は全巻集めると背表紙が西洋人形と時計が目立つゴチック風のイラストが完成する、というもので、見ても楽しいものでした。乱歩作品はこのシリーズとつながるようにできており、全巻そろえるとこれも絵になるようになっていました。

 もう一つは「陰獣」「孤島の鬼」など代表作の雑誌掲載時の挿絵が描かれていること。当時の雰囲気になることができます。

(下の写真は探偵小説全集)



 今回、電子書籍として創元推理文庫版を購入するということで、楽しみのはじめの方はあきらめなければなりません。が、全巻そろえても5000円以下、ブックオフで買うよりもやすい、ということで衝動買いしてしまったのです。


この3種類以外に私にとって忘れられない乱歩作品集があります。それは角川文庫版と春陽堂文庫版。どちらも高校時代、月々の小遣いから一冊ずつ買っていったもの。どちらもノスタルジアを感じさせるものです。


ことさらかようにこだわりのある江戸川乱歩。もちろん作品に関しても思い出があります。


本来ならこちらを書くべきだったのですが、それ以前のことでかなり長くなってしまいました。

乱歩に関しての思い出はまた次回。