こちらあいにの妄想短編です
ご注意ください
第3話。
キャリーケースを転がして空港から出る。
初めてやってきた日本は、アメリカに比べてまだ少しはだ寒かった。桜の花びらが舞い落ちる様子は穏やかで美しいけど、向こうよりどこか規則正しくてせかせかしてるみたい。
どこもかしこも日本語で溢れてるし、ガラリと違う街並みに珍しくテンションが上がる。
もう荷物はとど居てるらしいマンションの中に入って、翔さんに貰った紙を見る。
部屋は203か……1LDKで、向こうに住んでた頃に比べちゃ狭そうだなぁ。
エレベーターでのぼって203を探す。
一応お隣さんの表札を見てみると、珍しい苗字。……「あいば」って読むのかな?
オートロックのドアの先で思わず躓きかける。
「っあっぶねー、」
そっか、靴脱がなきゃ。アメリカから出たことがないから、家の中で靴を脱ぐなんて初めて。
なんだか足元がスースーする気がする。
ぺたぺたと足音を言わせて中に入ると、向こうで使ってた家具がチラホラ置いてある。
置き方はちょっと翔さんとは思えないから、オシャレな潤くんが手配してくれたのかなって、笑みがこぼれる。
とりあえず、生活するのに必要なものだけざっと片付けてゲームの接続をする。
日本に行くから と、向こうの友達たちに貰った日本語についての本。これをしっかり読み込んでおけよだって。
笑けてくるよね。
読まなくても日本語くらい話せるし聞き取れますーって言ったら、書けっ!って。
そう、日本語書けないんだよねぇ。なんか、形が難しくない?英語ならほとんどカクカクしててバランス取りやすいけど、ひらがなとか難しいし、漢字も覚えられる気がしない。
でもまあ、配属先は向こうにいた時と変わらず営業らしいし?なんなら俺が相手するお客さまは外交の方ばっかりな予定だし。書けなくても問題ないよね。
スマホを起動させて、翔さんと潤くんにLINEする。2人とも日本人だからトークは英語だったり日本語だったり。一時頑張って日本語入力してたんだけど、一瞬で挫折して英語に戻しちゃったしパソコンを日本語入力できるかだけが不安なんだよねぇ。
練習がてらふたりへのLINEは日本語でトライしてみる。
【家具とかありがとう】
【センスいいのはJun?】
ちっちゃい ゆ が打てなかったから、そこだけ英語に。変換で出てくる漢字使ってるけど、これで合ってるのかな。
ものの数分で返事が帰ってくる。
時差があるのにだよ?
【カズ日本語じゃん!】
【これだったら日本での仕事もバッチリだな】
【ほんとだ!おい、俺だってセンスあるぞー】
【えー?】
【そーかなあ】
【バカにすんなよ、俺のセンス!】
楽しい時間はあっという間で、気づけばもう20:00を回っていた。時差は半日以上あるわけでこれ以上はもうしわけないから、お開きにした。
特にご飯を買ってたわけじゃないから、夜ご飯どーしよ。冷蔵庫に入っているのでは?という僅かな希望にかけたが、水が1本ちょこんと入っているだけだった。
仕方なく、もう一度靴を履いて財布を引っ掴んで家を出る。するとお隣さんの家の前でまだそんなによるもふけてないのに、べろんべろんに酔っ払った酔っぱらいの典型に出会ってしまった。
おそらくお友達らしき人に支えられてやってきたこの人は、サラサラの茶髪にカジュアルなスタイル。すらっとしていてかっこいいくせに顔は真っ赤で、思わず笑ってしまった。
その瞬間お友達と目が合った気がしたから、ぺこりと頭を下げてコンビニに向かう。