蛾は闇を飛んでいた。
真っ暗な闇の中を蛾はただひたすらに飛ぶ。
闇を恐れ、光を求め、ただひたすらに。
光を見つけた蛾はその周りを飛び続ける。
だが、その時はもう自らの意志とは関係なく、蛾は光から離れられなくなっている。
長いこと闇の中にあると、目玉には映らん僅かな光さえ拾えるようになる。
そいつが人間の放つものだと知ったのはいつだったか。
線香花火のように人間もまた消えゆく時、一際大きく美しい花を咲かす。
だが、稀にこいつを生きながらに背に負う輩がいる。
その光はひどく不安定で…攻撃的でそして哀しい色を帯びていた。
知ってか知らずか、その光に惹かれ人が集まる。
そう、まるで蛾のように。だが、一度あの光を見て、もう闇の中に戻ることは俺にもできなかった。
俺も立派な蛾だ。再び篝火を失うことを恐れる蛾。
そして激しく燃える篝火に飲まれまいと必死に抗う蛾、篝火を指針に舞う蛾。
どこもかしこも蛾だらけだ。だが、虫ケラに混ざって妙なのが一匹。コイツは蛾なんかじゃない。
ひどく分かりづらいが確かに微かに光が見える。
そう例えるなら刀、鞘から抜き放たれた鋼の刃。鋭く光る銀色だ。…だが、どうしてかな。
どうにもコイツの色は気に入らねえ!!