私の家は桜並木の道の向こう。
赤い屋根の『桜荘』。
そのままつけたような名前だけど、
私はすごく気に入っている。

向かって右から3番目。
『藤代』の表札が私の家の目印。
「ただいま」なんて言ったって、
インターホンを鳴かせたって、
いつだって彼は出てきてくれない。

財布とケータイで
ぎちぎちのポケットから、 
鍵の救出に取り掛かる。
隣の家の高い塀で、
一匹の猫が、
つまらなそうに欠伸をした。

ドアの深い谷に、
救出した鍵を突き刺して、
180°回転させる。
ガチャっと音が響いたのを確認し、
右手で今度はドアノブを、
180°回転させる。

日当たりの悪い玄関から見える居間。
彼が定位置に座って、
「おかえり」と手を振っている。

ゆっくりと私の旧友の、
スニーカーを脱いで揃えた。