どうもです。
このお話は、『罠。』を読まれて無い方には意味不明だと思います。そして、『罠。』の無茶苦茶ぶりに耐えられたかった方々も読まれないほうがいいと思います。お気をつけくださいませ。
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《蓮城響さん視点》
「響君…言ってたよね?響君のマンションで……………私の体が小さくて薄いとか…………って。」
キョーコの言葉で、思考の渦にはまっていた俺は現実に引き戻された。
クオンのメールに返信を終えたキョーコが、小さく深呼吸をして話を切り出してきたのだ。
「ん?ああ、そうだね。……よし、終わり!」
「う、このアレンジ、ほんとに大人可愛い……………すごい!!仕事でもないのに、本当にありがとう!!……………これなら……………敦賀さんに少しは可愛いって思ってもらえるかな?」
「ああ、もらえるもらえる!」
「もう〰なんだか言い方が適当………私、真剣なのに……………」
不満げに、口を結ぶキョーコ。
「ん?だってさ、敦賀君はすっぴんで髪もてれーんってしたキョーコでも、可愛いくて仕方ないって思ってるよ?」
「響君、いつもそれ言うけど…………そんなわけないじゃん…」
おや?キョーコ、元気無いな。
「……………あ、そういや、何?俺が何だって?」
「ああ、あのね……それって…………私の体が小さくて薄いとかって、…ペタンコで貧相って…こと…………かな?魅力が無くて、男性として、その気に…………なれないって、こと…………?」
もじもじと、ぽしょぽしょと言葉を紡ぐその姿は、ひどく自信なさげだ。目元はほんのり赤く染まっているから、端から見たら俺が告白されているとでも思われそうなひとこま。うん、このシーンはクオンには見られたくないな、と思う。そう、クオンはキョーコにベタ惚れだ。俺の中のクオンという人格像を大幅に変える程に、クオンのキョーコへの愛し方は衝撃だった。
クオンは、子供の頃から女性の扱いは天然で長けていて、優しくてレディーファースト。付き合いはじめた女の子達からのあの熱い視線からすると、ベットの中でのテクニックも申し分なかったのだろう。それじゃあ、もう文句なし……………では、なかった。実は彼は『恋人』としては、劣等生だったのだ。愛情も執着もペラペラのちり紙………と言っても過言ではなかった。クーへの愛情は深かったというのに。
俺のアイデンティティを知っているクオンは、俺からのキョーコへのアクションは心配していないと思う。いくら俺達が二人きりでいても、俺が周囲の馬の骨への牽制やキョーコのエスコートのために、彼女の腰へ手を回しても、クオンはそしらぬ顔をしている。むしろ、『キョーコをどうかよろしくお願いします。俺の代わりに守ってやってください。』という声が聞こえてきそうなくらいだ。それは、俺がキョーコにそんな気が産毛程もないことをわかっているからだ。でも、逆なら別。キョーコから俺への思慕が生まれたら、そのときは間違いなくクオンは俺を敵認定するだろう。ま、クオンに夢中なキョーコのことだ。俺によそ見したりなんてあり得ないと思うけど。
……………で、なんだったけ?キョーコのお悩み相談中だったな。えーと、って、おや?キョーコのやつ、まさか蓮に手を出してもらえないことが不満……………いや、不安なのか?……………ふーむ。なるほど。
「…違うよ。俺には、キョーコがどうこう以前に、女の体そのものが対象外なんだ。」
「う、うん?」
「わかるような、わからないような?」
「……………あ〰、うん。」
「俺は女ってだけで、もうダ『コンコン!!』」
「お疲れさん〰」
「最上さん、おまたせ。」
そこに、ノックのあと社さんとクオンが入ってきた。
クオンを見て、ふわあっと花が綻ぶように笑顔になるキョーコ。
……………よし。ま、ここはクオンにもちゃんと聞かせてやるか。
「キョーコ、さっきの質問の答えだけどさ。世の中にはそんなキョーコを、抱きたくて抱きたくてたまらない男もいるんだから、俺に恋愛対象外にされてもそう落ち込むなよ。」
俺はそう言って、キョーコに向かって爽やかにウインクを繰り出す。
「「……………………………っっっ!!」」
クオンとキョーコは一瞬目と目が合って一気に赤面すると、バッと目線を反らした。
うん、俺、ナイスアシスト!
と、俺が自己へ称賛を送った時だった。社さんが俺をジト目で睨んでいることに気づいたのは。
その視線には、『社さんの言いたいこと』が、ありありと現れていた。
(…………蓮城は言葉の表現がいちいち露骨なんだよな…………。この子達、ようやくなんとかうまくいってるんだから、蓮はともかく、キョーコちゃんはあんまり刺激しないでほしい。
……………………蓮のために。そして、俺の胃のために。)
まあ、そんなところだろう。
……………ふう。ホントわかってないなあ。社さんは。
…………そう、キョーコは、もう覚悟はできてる。クオンの本気を、女性として受け入れること。未知の世界に足を踏み入れることに恐怖心がないとは言わない。でも、クオンを喜ばせてあげたいと、クオンの手に引かれて進むのならばそれこそ本望だと。キョーコは……………もう、そう思っているんですよ。
社さんがブスッとしている後ろを、まあまあ、と宥めながらクオンが着いていく。そして、そのクオンを、後ろからこっそりと見上げて歩くキョーコ。その表情は、もう「女の顔」だ。たっぷりと塗られたグロスが艶やかにクオンを誘っていた。
翌日の昼頃。
俺と社さんはたまたま事務所の駐車場で居合わせた。
「社さん………お疲れ様です。」
「おう。」
ここは密室でもないけど、でも、こういう、少し閉鎖された感じの暗いところで二人きりになると、いまだに社さんが少し緊張しているのを感じる。どうしても、あのときの感触を思い出してしまうのだろう。……………はぁ、自分のしでかしたこととはいえ、切ない。
でも、こういう、お互いに息を殺したような張り詰めた空気は俺が好きじゃないし、社さんにも申し訳ない。だから俺はあえておどけてみせて、カラリとした空気に変えるのが常だ。
いつものように軽い話題を持ち出そうと口を開きかけた時、社さんから話しかけてきた。
「お前は、キョーコちゃん待ち?」
「ええ。今から車で〇〇テレビへ。ここで集合の予定なんです。社さんは、敦賀君待ちですか?」
「うん、珍しく今日は昼からなんだ。……………って、そうだ、蓮城。」
社さんは声をおさえている。
「はい?」
「昨日みたいなの、本当にやめろよな?」
「昨日の?って、ああ……………あれですか。」
『世の中にはそんなキョーコの体を、抱きたくて抱きたくてたまらない男もいるんだから、』ってのを、クオンとキョーコに同時に聞かせたことか……………。
「だいたい、お前のせいで蓮が可哀想なことになってるんだからな。責任重大だなんだぞ。」
引き続き小声で、社さんが俺を責める口調で言ってくる。
「お前のあんなもん、純情乙女のキョーコちゃんに見せちゃって……………おかげでキョーコちゃんは、あれをエイリアンだと思っちゃって、それを聞いたアイツ(蓮)の男心を激しく傷つけて、二人の関係を進めることに臆病にさせたんだからな……………」
ああー。キョーコが、俺のマンションで放った言葉の数々のせいで、クオンが臆病になってるって言いたいのか。
キョーコのセリフといえば、
『つ、通常、男性の脚の間に存在するのは、そのっ、せ、生殖器なわけでして………そ、そりゃ拝見したことはございませんけれども、わたしだって、もうすぐハタチですし、一応知ってます!だ、だから、だからっ、アレが、男女がまぐわう時に、女性の体の中に入ることも知ってます!!』
『だって…、だって、アレ、ビョンって立って!時々ビクビク動くんですよ!あ、あんな色!あんな形!大きいし、太いし!あ、アレを女性の体の中に…だなんて……もう全部全部おかしいじゃないですかっっ!!あり得ないじゃないですかっっ!!』
『ま、まあ、他所様の星の住人の姿形をどうのこうの言う資格は私にはないですけどっ、でもっ、あんな気色悪いのが、地球人の人体の一部なわけないっっ!あ、あ、あんなの入れられたら………私、私ならっ死んじゃいますっっ!!!そのような行い、断固………断固、断固拒否しますっっっ!!!』
てのだよな……………。
うん、まあ確かにそうだったとは思うけど。あの時のクオンとキョーコには、色々と衝撃を植えつけてしまったとは思うけれど。だがしかし。
「………アレ?社先輩、そんなこと言っちゃいます?」
「は?実際にそうだろうよ?」
「………はぁ〰〰。社センパイって、キョーコのこと、なんにもわかってないんですねぇ。」
カチン!!と音を立てて、社さんの中に怒りの感情が生まれたのを感じる。
「あのな、キョーコちゃんは俺にとって可愛い妹みたいなもので、一応ちゃんと観ているつもりだけどな!でもたしかに女の子ことを何でもわかってるつもりはないけどな!でもお前にだけは言われたかないわっ!」
やはり社さんは怒っていた。
……………うんうん、いい感じ。
いい雰囲気だ。
「クスクス、だからかあ〰。『兄』目線だから、キョーコのこと、ちゃんと理解できないんですね。」
と、社さんをからかうように言う俺。重苦しい雰囲気が完全に雲散霧消した。ああ。でも、思わず好きな人をいじめてしまう自分の性分がうらめしい。また社さんに嫌われたな。
社さんが目を見開いて、それから憮然とする。
あ〰社さんの思考が手に取るようにわかる。きっと……(ほんっと、蓮城のやつ、俺へのアプローチの仕方、おかしいだろう………好きな子を思わずいじめちゃうとか………ガキじゃなるまいし。マジでイライラするんですけど………。俺に好意を寄せてるなら、もっとこう、柔かな物腰で接するとか……俺が喜ぶようなことをするとか…)って考えてるんだろうな、と思った時、クオンの愛車が駐車場に滑り込んできた。
「社さん、お待たせしました。蓮城さんもお疲れ様です。」
車のエンジンを切って、運転席から、クオンがのっそりと出てくる。
そのクオンの纏うオーラに、俺は、『ああ、やっぱりか』と思った。
社さんも『あれっ?なんか……蓮……………?』という表情だ。
「お、蓮、オハヨ!昼飯は食ってきたか………って、あれ……………キョーコちゃん……?」
社さんが、クオンの車の後部座席に隠れるように小さくなって座っているキョーコちゃんを見つけて、驚いた声をあげた。
「………………え、だって、蓮、お前、自宅から最短時間で来ただろ?さっき携帯で話した時、明らかに自宅だったよな。……………キョーコちゃんちは、少なからず遠回りになるはずだし……………なんで今、キョーコちゃんが蓮の車で一緒に来れるんだ……………?」
社さんは目を瞬いて、しばし。
「………………ま、さか」
そして、社さんはある予測に思い至ったらしい。
うん、今日のクオンの色気と、咲き誇っているお花がすごいしね。間違いなく、決まり、だね。
……………ふ、キョーコの方は微妙に固いし。いやはや、微笑ましい。
……………あ、そうだ。ここはちゃんと社さんに主張しておかないと。俺のマンションでキョーコに少なからずショックを与えたのはたしかに俺だけれど、最近、キョーコを煽っていたのも俺だ。…………功罪の『功』も明確にしておかないとな。
「キョーコ、どうだった?敦賀君のエイリアン様の物体は…………。キョーコの中にちゃんと入って、入ってもキョーコは死ななかったでしょ?」
その俺の朗らかな問いかけに、ゴバッッと音を立てて赤くなったキョーコは、さらに身をちぢこませて狭い後部座席の足元に潜り込んだ。
そんなキョーコを見てクオンときたら、更にご機嫌になっちゃって……………そして、俺は思わず目をこすった。なぜなら、『キョーコ大好き!好き好き好き好きっ!くーんくーん!!!と、真っ黒大型犬が尻尾をブンブンと振っている幻覚』が見えたからだ。おいおい、クオンのやつ、なんてオーラなんだ。
……………はいはい、わかりました。キョーコを抱けて嬉しくて仕方ない上に、まだまだ足りないのね。わかったわかった。できるだけお前達が愛を育めるように仕事の調節を頑張るから。社さんもきっと同意だろう。キャーッと顔を赤らめているから。
そして……………今は、俺が社さんに構ってもらえるチャンスだ。今なら、この子達もいるし、社さんとは過緊張な雰囲気にならずにすむだろう。
「ほら、ね?」
俺は、社さんの耳元に息を吹き掛けながら話しかけた。
「………………!!!」
耳を手で押さえて、ギョッと飛び退く社さん。
「むしろ純情乙女さんにイケイケな刺激を与えたんだから、誉められてもいいくらいだと思うんだけどぉ。」
「え!!?」
社さんは目をひんむいた。
「ね、社センパイ、頬ちゅーでいいですよ?」
「は!!?」
社さんは、さらに目をひんむいた。
「だから、敦賀君とキョーコのことのお礼、頬ちゅーで手を打ちますよって。」
「…………………………れ、れんじょー!!お前ーーーっっ!!!」
「アハハハっ!!」
社さんは顔を真っ赤にして、拳をぶんぶんと振っている。
キョーコは、話題が自分から離れたのでホッとしたのか、もそもそとクオンの車から這い出てきた。それを、蕩けた顔のまま、手を貸して助けるクオン。
あー。社さんが、俺を見て感情を昂らせている!楽しいな!!ドキドキするな!恋っていいな!!
……………でも、やっぱりクオンがうらやましいよ。俺も、愛し愛されたい。好きな人の心も体も俺のものにしたい。体温を分け合いたい。
……うん……………………社さんのことは簡単には諦めきれないけど、次の恋を探すかあ。
よし、出会いを探すぞ。
俺の第三の人生はまだ始まったばかり。これから、これから!日本の芸能界で学ぶこともまだまだ山ほどある。
いつか本名を堂々と自信を持って明かせるように、仕事も恋も全力で頑張ろう。な、クオン?
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これにて『罠。』は完全完結です。
お付き合いありがとうございました!!