※通常記事ですが、夜の行為に関して描写が露骨なところがあります。そういうのがお嫌いな方は読まないことをおすすめ致します。




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朝の光に満たされたキョーコの寝室で。蓮は、キョーコの柔らかな胸に顔を埋めて、スウゥゥーッと息を吸い込んだ。

「……………ん……………なるほど……………」

「……………にゃ、にゃにをしてるんでしゅ、か……………」
ふと目が覚めたキョーコは、自分の胸に蓮が顔を埋めているのに気づいて、赤面してオロオロしながら問いかけた。

「あ、おはよ……………。とね、二人の匂いがちゃんと混ざったかなあって…………確認?」

「っぁ、」

「ほら、キョーコも俺のこと嗅いでみて?」

にこにこと嬉しそうにそう言った蓮が、思いきり布団をめくると、お互いの上半身が完全に露出してしまう。

「っや!、やですぅぅっ」
胸元を両手で覆って、うつぶせになるキョーコ。

「……………い、嫌って……………傷つく……………」

「……………は、恥ずかしいんですっ!!や、じゃないんです!それにっ、つ、敦賀さんのお肌だって、直視とか無理なんですっ!」

「……………えー、キョーコはこのくらい平気でしょ?昨日は俺のこと裸にひんむいて、俺の大事な『敦賀さん』にあーんなことや、そーんな「ぴやああぁぁぁ〰〰〰〰っ」」

キョーコはうつぶせのまま身悶えながら叫んだ。

「あ、あれはっ、あれはっ、もう必死で!それこそもう何も考えないで!!ああでもしないと敦賀さんは鏡に……………だって、だってそれに、すごく薄暗かったし!つ、『敦賀さん』のことだって、あのときは見てないしっ」
「ぷくくくくっ、…………………………そだね、本当にそうだよね……………」

蓮の声に優しさを感じて、キョーコはベットに押し付けていた顔をそろりと上げた。

そこにあった蓮の目は、どこまでもキョーコへの愛で溢れていた。

「つるが、さん」
キョーコは胸がいっぱいで、思わず蓮の名前を呼ぶ。

「俺のこと……………想ってくれて、頑張ってくれて……………本当にありがとう。……………うん……………何度でも言える……………」
そのままキョーコに覆い被さると、蓮はキョーコをぎゅうと抱き締めた。

「……………はい、つるがさん…………も、ありがとうございます。」

「ん……………」

そこで、甘い雰囲気になりかけたが、しかし。蓮は、ふと、嗅ぎなれた、自分の吐き出した欲望の象徴の特有な匂いを、自分達から感じて、あ、と思って固まった。


ゆうべ、キョーコの中に自身を埋めた蓮は、理性的というよりは本能的に行動してしまったと思う。

蓮の独りよがりな行為で、万が一キョーコが妊娠などしたら、まだ二人だけでラブラブしたいと思いながらも、もちろん自分はキョーコごと大切に慈しんで守ろうと思える。が、キョーコはとうだ?キョーコはまだ若く、未婚で、仕事も始めてまだ一年たったばかりだ。そんなのいきなりには困るだろう。蓮にとっては大変言いづらいが、引き延ばせる話題でもない。

小さく息を吸って、蓮は思いきりをつけた。

「あの、ね、謝罪というか、なんていうか……………」

「……………はい?」

「昨日はもともとはことに及ぶつもりもなかったから、避妊具……………ゴムを用意してなくて、使わないでしたよね。」

「あ、……………はい。」

「気付いてた?」

「……………え、と、はい、……………まあ。」

「……うん。……………キョーコのことを、軽んじたつもりはないんだよ?でも………俺はもう次の機会とかまではどうしても我慢できなくて、つけないでしたんだけど……。それだけじゃなくて……………向井さんがメールで、本当はキョーコは妊娠しやすい日じゃなくて、逆に安全日だって言ってきて……………その言葉に、どうにもこうにも我慢ができなくなって、キョーコの中で致したと言いますか……………なんと言いますか……………」

キョトン、としたあと、パッと赤面するキョーコ。

「全部……………キョーコが欲しくて……………俺の全部をキョーコにもらって欲しくて……………………それに、もし、『そういうこと』になっても、それはそれで幸せだなって……………でも、朝になって冷静になったら、やっぱりひとりよがりなマナー違反だったなって思って……………」

しどろもどろに言葉を紡ぐ蓮が可愛くて、キョーコは心の中があたたかくなってきたのを感じる。

「その、本当にごめんなさい……………」

「あ……………いえ……………大丈夫ですよ、きっと。向井さんが大丈夫って言ったなら……………私、本当にそういう周期は規則的ですし、それに……………敦賀さんが安全日だと思って致したのなら、鏡が……………きっと妊娠させません。」

「…………?」

「『働け、学べ、キョーコ、お前は妊娠にはまだ早い』って、鏡なら言いますよ。」

キョーコのおどけた口調に、蓮は漸く安堵の笑顔を見せた。

「そか……………そ、だね……………」

「ね、ふふ。」

「ありがとう……………。」

「いえ……………でも、話してくれて嬉しかったです……………。こうやって……………思っていることを溜め込んだりしないで、言葉にしてお互いに伝えるのは大切なことですよね……………」

「うん、そうだね………………。…………あ、ね、だからさ、次からはきちんとつけてするから…………………………だから、この部屋にも……………置いておいてもいい?」

「……………!!い、いい、ですよ……………!」

「やったー、今度来るときに、たくさん持ってくるね?」

「た、たくさんっ?」

「うん、たくさん!……………キョーコと、いっぱいしたいから。」

「い、いっぱい!?」

「ふふ、うん。それに、デートもね。」

「ぁ、」
そうだった、とキョーコは思い出した。顔合わせの翌々日、会社帰りのデートの時に、手をぎゅうと握ってくれた蓮が、『夢みたいだ』と呟いたのを。会社帰りにデートをしたかったのだと言ってくれたことを。


ああ、そうか………あれもこれも全部全部、敦賀さんの本心だったんだな……………とキョーコは思う。本当に、私は敦賀さんに想われているのだ、と。愛されているのだ、と。

蓮の腕の中で、キョーコはくるりと反転すると、自分からもぎゅうとしがみつく。

蓮を喜ばせたくて、「デート……………たくさんしましょうね。」と応えた。

キョーコのその言動に、嬉しそうに体を揺らして応えてくれる、蓮。

「あの、さ………俺も色々考えたんだけど……………一緒に住むのもかなり魅力的だとは思うんだけど。でもなにせ、どうせ今年じゅうにはそうなるわけだし……………こうやって、キョーコだけの空間に入れてもらえるってのも、また嬉しいし、何より、俺たちは『ただの社内恋愛』だし?。」

「……………あ、はいっ!」
(そうだ、鏡なんて関係の無い、ただのカップルなのよね私達は)、と思ったキョーコは、元気よく返事をする。

「うん、だからね。別々の場所にある程度住み続ける『お付き合い期間』なるものがあって、それから『結婚と同時に同居』で然るべき…………だよね?」

「はいっ!」

「で、今度は俺のうちに遊びに来てね?」

「あ、はいっ!」

「で、俺の家を今後の新居にしてもいいか、それとも別に家を探すか………君の意見を聞かせて?」

「はいっ。」

「あ、あと……………俺のベットは……………君と気持ちよく眠れるサイズだと思うんだ…………………今度使って………寝心地の感想も…聞かせて?」

「は、ハイッ。」
蓮の含みを持った言い方に、キョーコは汗をかきながら元気よく返事をした。(うぅ〰いくらこんなかっこで抱き合ってるとはいえ、また夜のお誘いをされたんだと思うと、やっぱりまだ平常心は無理だよ〰)と焦りながら。

「……………よし、キョーコの匂いも嗅げたことだし、このままだと『敦賀さん』もまた元気になっちゃうから、パッとここから出ちゃおうか?」

「はははいっ。」

二人はまた順番にシャワーを手早く浴びて軽く朝食を済ませると、蓮が「行きたいところがある」という言葉に連れられて、キョーコは家を出た。













「お二人様、こんにちは。」
敦賀家のコンシェルジュ、向井直子は、あたたかな笑みを若い二人に向けた。




茶房の個室に、蓮に促されて入ったキョーコは驚いた。そこには『向井さん』が座っていたから。

「キョーコ様、昨夜はお疲れ様でした。」

「む、向井さん……………ぁ、お疲れ様です……………。」
『昨夜は』という言葉に赤面しながらも、キョーコは直子に丁寧に頭を下げた。

会う人が向井さんなら、教えてくれたらよかったのに、という気持ちをこめた視線を蓮に向けると、蓮は「あらかじめ言ってると、キョーコがずっと気まずい思いをするかなって、知るなら直前がいいと思って。」と返す。その言葉に「そ、そりゃ、そうだけど……………。」とモゴモゴと返すキョーコを、にこにこと見つめる直子。

蓮は、直子に真っ直ぐに向き合うと一礼した。

「向井さん、この度は大変お世話になりました。おかげで、彼女とは、誤解のしようもない状態で、お互いのことを伝い合えました。」

「はい。そのようで。」

「……………ふ、本当に、向井さんには敵わないなあ!」
蓮が大袈裟に万歳をすると、直子はまた穏やかに微笑む。

「いえ、当事者同士は目が曇るものです。第三者の私だからこそ、できることがあると思っております。……………ああ、キョーコ様、どうかこれからもお一人で悩まずに、わたくしをつかってくださいませね?」

「つ、つかうだなんて……………!でも、はい。お言葉に甘えて頼りにします!」

そこで蓮の携帯に着信が入った。蓮は二人にひと言断りを入れて室外に出る。その姿を見送るキョーコに、直子は声をかけた。

「キョーコ様。」

「あ、はい。」

「蓮様をどうかよろしくお願いいたします。」

「……………え?」

「蓮様は幼少期の時分より、とても優秀な方でした。」

「……………あ、はい。存じあげております。」

「蓮様は、生まれ持ったたぐいまれなる才能を……見ているこちらが辛くなるような、血も滲むような努力で、磐石なものとしてきました。」

「……………はい。そうなのだろうと……………」

「……………でも、わたくしは……………幸司様も……まわりも……………その彼の努力への評価は………酷いものだと……………思ってきました。私は、幸司様に、蓮様を甘やかさないように厳命されておりましたので、なまじ褒めて差し上げることもできず……………」

「…………………………はい。」

「でも……………キョーコ様は違う。」

「……………!」

「きっと、キョーコ様は、蓮様と同じだから……………」

「……………ぃ、いえ、そんな………私……は………同じでは……………」

「いえ、同じでございますよ……………蓮様を見ていればわかります。それに蓮様は、キョーコ様にとても心を開いています。それは、きっと、キョーコ様が蓮様を認めているからです。」

「…………………………」

「蓮様は、あなたが見ていてくれるのならば、あなたが彼を理解してくれるのならば、いくらでも頑張れるのです。」

「……………向井さん、」

「蓮様を………見ていてあげてください。そして、包んであげて……………。あなたにしかできないのです。蓮様は、誰よりもあなたを必要としている。あなただけ、あなただけを……………だからどうか、蓮様のおそばに……………」

「…………………………はい。………はい!必ず、必ず……………私は彼のそばに……………!」

「……………キョーコ様……………ありがとうございます。」

直子は、心底ホッとしたように息をつくと、キョーコに頭を下げた。