間が空きすぎて、設定をお忘れの方も多いかと……(;TДT)
ちなみに、お話ではなく、ブログの「キョーコ花魔法の修正」の短文が「いいね」が9件で、真面目に書いた「罠5」の方は13件しか「いいね」がいただけないのは、よっぽど皆様、「罠」のストーリーがお気に召さないのですね。ぽてと、興味深いです。
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「嫌だ。ここで解散なんてしたくない。俺のマンションに一緒に来て。」
なんとか泣き止んだ後に「ここで帰ります」、と大社の鳥居の下で言い出した私に、敦賀さんはうんとは言ってくれなかった。
「敦賀さん、……敦賀さんは、昨夜は、私を待つとおっしゃってくださいました。」
「うん、たしかにそう言ったけど。でもそれは、俺達の関係に君が前向きに向き合ってくれると思ったからだ。今の君は、俺となんとかして距離をとろうとしている。しかもそれは、俺の望む準備じゃない。俺から完全に離れるための準備だ。そうだろう?…それが何でなのか、どうしたら君の気持ちが変わるのか。その方法を探したい。ただおとなしく待っているだけなんてもう無理なんだ。」
敦賀さん、必死だ………。
でも、なんとか、なんとかしなければ。
私がどれだけ「敦賀さんのキョーコちゃん」さんになりたくても、どれだけ敦賀さんを返したくなくも、私は違うから。私は「敦賀さんのキョーコちゃん」ではないから。
これ以上私が敦賀さんのアプローチを受けるべきじゃない。
でも、敦賀さんの猛攻を退ける方法がわからない。
それに、このまま一緒にいる時間が延びるのはまずい。自分でわかる。急速に育つ欲。敦賀さんを欲しいと思う「欲」。これ以上は本当にまずい。
この際なんでもいい。
なんでも試すしかない。
「つ、敦賀さん………って、本当に私と……最上キョーコと関係を進展していきたいと思ってらっしゃるのですか?」
「……あ、ああ!もちろんだよ!!本気に決まってる!……って、え?君はそれを疑ってるの?」
「疑っているというか、私は、あなたに………敦賀さんに、は、他に好きな人がいると思っているんです………。」
「…………は?え?なんのことかわからないけど……とにかく俺は君だけで、ていうか、まだちゃんとその気持ちも言わせてもらってさえいないっていうか、君に止められて。…って、言っていいの?そしたら進めさせてくれる?逃げないでいてくれる?」
…………ですよね…………。
そりゃ、そうですよね。敦賀さんは、「キョーコちゃん」さんが好きなんだから、なんとかしてお付き合いしたいですよね……。
や、だから、もう私はアクセサリーもついてないんだから、「敦賀さんのキョーコちゃん」さんじゃなくてただの最上キョーコなんであって……って!!うぁぁぁぉぉぉぉ〰〰〰っっ!!もうこんがらがった!!思考が、思考が限界を迎えた!!
もう、当たる!!当たって砕けてやる!!思えば、私の人生なんて、いつも一か八か!無難で済んだことなんて何も無いんだから!
もう当たってやる〰〰!!
「わかりました………話、をしましょう。」
じゃあとにかく落ち着く場所がいいだろうと、私達は論議の場を敦賀邸のリビングへ移した。
「さて、敦賀さん。もういきなりザックリドッカン行きますよ?」
リビングの入り口に立ったまま、私は気合いだけで話し始めた。
「ざ、ザックリ……ドッカン………?……う、うん………のぞむところだよ………!」
「敦賀さんて、ハタチの時から…初恋で…好きな人、いますよね?」
「…って、え?えぇ?な、なんで君がそれを知って……。」
「やっぱり………ですよね………。」
「そ、そうだけど……って、あの、さ」
「ということは、当時の私達の関係からすると、その敦賀さんの好きな人が、私なわけないですよね……?」
「あ、……ゃ、その」
「ちなみに敦賀さんに好きな人がいらっしゃるという事実を知っているのは、かぎられた人だけ…ですよね?」
「う、うん。」
「…その…中に、鶏はいませんか?」
「…え…え!?か、彼がまさか君に……?そん、な…彼が………?」
さあ、言え、私!今だ!!!
敦賀さんの顔を見る勇気が無い私は、俯いて大きく深呼吸をする。
声音を作って、震えないように、努めておどけた口調で話し始めた。
「てんてこ舞いなんだけどさ、結局あのあと君はどんな風に表現したんだい?」
今は着ぐるみは着ていないから雰囲気は出ないし、声もそのままだから「坊」らしさを完全には再現できないけれど、でも、きっと、わかりますよね?敦賀さん?
「……ぇ。」
敦賀さんの、明らかに困惑したような声。頑張って続けて、私!
「せっかく僕がてんてこ舞いの意味を教えたんだからね、君も監督も納得するような、素晴らしい演技を披露できたんだろう?」
「それ、……は……。」
「ん、どうしたの?答えられないようなスチャラカな演技をしちゃったの?」
さあ、本題。敦賀さんが黙っているうちに一気に決める!!
「あ、そうそう敦賀君。演技に躓くといえば、あんなに苦しんでいたのが信じられないくらい、君の嘉月の恋の演技は素晴らしかったよ。あの4歳年下の女の子との恋はその後上手くいったってことかな?本当の初恋で今までとは勝手が違うとはいえ、君のような完璧な男性が愛を囁けば、どんな女の子だってイチコロだろうからね。」
ふ、ふう。言った、言ったぞ。言ったったぞ。
ザックリドッカン行ったったわよ。
……………敦賀さん?反応がない……?
…………どうしたのかな?
怖いけど見てみようかな……。
待っていてもしかたがないので怖怖と目を開けると、なんと敦賀さんが頭を両手で抱えて床に座り込んでらっしゃる。
「つ、敦賀さんっ!?どうしたんですかっ!?ご気分でも……」
慌てて私もしゃがみこんだ。
「に……鶏……君………なの?」
唸るように小さくこぼれてきた言葉。
「…っっ!…………………は、はいぃ……。」
「〰〰〰〰〰〰〰〰。」
ああっ、さらに頭を抱えてしまった!
でも、敦賀さんが自分の思考にこもっている今がチャンス!!
「と、いうわけでしてっ!敦賀さんの想いを知っているわたくしとしましては、もう、これ以上の議論は不要かと思われ!これにておいとまさせていただきたく!」
一気に捲し立てて、そっと立ち上がろうとした私。
よくわからないことも多いけれど、とりあえず、これでこの理解不能なやり取りは一旦幕引きにできそうだ。
……それに今ならまだ、玄関まで泣かずに耐えられそうだし。
「……待った!待って、ダメダメダメダメ!帰ったらダメ!!」
敦賀さんの手が、パシッと私の手首を掴む。
「……ぅ?」
「はあ〰!そうか、そうかあ〰もう、もうなんだよ…俺は、いよいよ最上さんがいないとダメってことか。はあ〰とはいえまさかなあ〰もう〰〰〰」
「つるが、さん……?」
「……うん、なんか、あれだ。うん、色々ありがとう。」
「…え?い、いえ、私なんか、あの、敦賀さんを騙して……そのっ」
「ううん、そんなこと。そうかもしれないけど、でも、うん、ありがとう。君が、君のおかげで、全部全部全部、うん、ありがとう。」
「……ぇ……ぇぇ〰でも、でもだって。」
なんでどうして。
大魔王の降臨か、蔑むような冷えた視線を覚悟していたのに。
なんでどうして、敦賀さんは顔が真っ赤なんですか。一般的に、そういう態度は「照れている」と表現される……………って、あっっ!!!こ、これは演技!?
「………演技なんかしてないから。思いっきり素ですから。」
私の表情から思考を読み取ったらしい敦賀さんがボソリとこぼす。
な、な、な、なんなのっっ!?チロリ、と見上げてくる視線が、捨て犬みたいなんですけど!
文句なしにかわゆいんですけど!!
うぅ〰〰そんな場合じゃないのに、きゅんきゅんいたしますうぅぅ〰〰〰!!!
「それに、『騙してる』ってことで言うなら、俺は、君を責められない。」
「騙…す?」
あ……今度はそんな辛そうな顔………して………………私まで悲しくなります……。
「うん、そう。はあ。そうか。そこまで最上さんが知っていて、その上で俺の言葉を信用できないって言うなら、話すしかないかな。全部。」
目を閉じて、噛み締めるように呟く敦賀さん。
………なんだろ、敦賀さん、やっぱり辛そう…………。それ、私が聞いてもいいことなのかな。「敦賀さんのキョーコちゃん」さんが聞くべきことなんじゃないのかな。
「最上さん、その前に確認。……昨日は………昨日、いつになく可愛いことを言ってくれたのは、ラブミー部のミッションとか…演技の練習では無いんだよね?君の本心なんだよね?」
「…………は、はい。昨日、は、もちろん本気で……。私の言葉……だったです。」
「キョーコちゃん」さんの印象を悪くするわけにはいかない。ここは肯定しておかないと。……それに、確かに昨日の「言葉」は、私の「本心」だ。
「そうか、そう。……じゃあ、情けないんだけど……勇気を……勇気を君からもらえないかな。」
「勇気…?」
「うん、そう。君に全てを話すための勇気。少し……長くなるし、君の心に負担をかけるに違いない話なんだ。でも、そうしないと、君に俺と向き合ってもらうのは無理そうだから、もう誤魔化すのはやめにするよ。」
「あ、でも、きっとそれは、私が聞くことではなくて、あの、本当に聞くべき方が、そのっ」
「…………?なんのことかわからないけど……俺が本当のことを話したいのは、最上さんだけだよ。あの時……君のおかげで前を向いていくと決めた時点で、そう遠くない未来に君に話さなくちゃいけないって、話したいなって思ってはいたんだ。だからね」
ふわりっ
敦賀さんがゆっくりと私を包み込む。
「……こうして君を抱き締めていると……勇気が湧いてくるんだ……。こんなにも幸せな存在が、俺の腕の中にこれからもいてくれるかもしれないんだから……、頑張らなきゃって思える。」
ぎゅうぅっと一度強く抱き込んだあと、ゆっっくりと離れていく敦賀さん。
その話を聞くべきなのは私ではないと、今、断らなければと思うのに。
「じゃあ、話すね。……どうか最後まで聞いていて。」
その真摯な言葉が、視線が。
「最上キョーコ」に向けられていると、そう感じてしまって、私はコクリと頷いた。